皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
事業で使っていた車や機械、店舗の建物を売ったとき、その利益は「事業所得」ではなく原則として「譲渡所得」になります。ここを間違えて事業所得に含めて申告してしまうケースが非常に多いため、この記事では、事業用資産を売却・下取り・廃棄・家事転用したときの所得区分、総合課税の譲渡所得の計算(取得費・50万円控除・長期の2分の1)、土地建物の分離課税との違い、消費税の扱いまでを、横浜市青葉区・都筑区で個人事業主の確定申告を担当している税理士が解説します。
この記事の結論(先に3行で)
- 個人事業主が事業用の車両・機械・器具備品・建物・土地を売ったときの利益は、事業所得ではなく譲渡所得です。商品(棚卸資産)の販売、10万円未満の少額資産・一括償却資産・使用可能期間1年未満の資産の売却だけが事業所得になります。
- 車両や機械などの総合課税の譲渡所得は「売却代金 −(未償却残高 + 譲渡費用)− 特別控除50万円」で計算し、所有期間5年超ならさらに2分の1にして他の所得と合算します。取得費は買った値段ではなく、減価償却後の帳簿価額です。
- 土地・建物は分離課税で、売った年の1月1日時点の所有期間が5年超なら所得税15%+住民税5%、5年以下なら30%+9%(別途復興特別所得税)。消費税の課税事業者が事業用の建物や車を売ると、その代金は消費税の課税売上にもなります。
事業用資産を売ったときの所得区分|譲渡所得になるもの・事業所得になるもの
譲渡所得とは、土地、建物、車両、機械、株式、金地金、ゴルフ会員権などの資産を譲渡(売却)することによって生ずる所得です(所得税法33条)。事業に使っていた資産であっても、売却益は事業所得ではなく譲渡所得に区分されます。
| 売ったもの・処分の方法 | 所得区分 | ポイント |
|---|---|---|
| 事業用の車両・機械・器具備品(取得価額10万円以上) | 譲渡所得(総合課税) | 取得費は未償却残高。50万円控除、5年超なら2分の1 |
| 事業用の土地・建物(店舗・事務所・倉庫・賃貸物件) | 譲渡所得(分離課税) | 他の所得と分けて税率を計算。建物の取得費は減価償却後 |
| 商品・製品・材料(棚卸資産) | 事業所得 | 本業の売上と同じ |
| 取得価額10万円未満で全額経費にした資産、一括償却資産(10万円以上20万円未満で3年償却を選んだもの)、使用可能期間1年未満の資産 | 事業所得(または雑所得) | 売却代金は事業の雑収入として計上(所得税法施行令81条) |
| 少額減価償却資産の特例(30万円・40万円未満)で全額経費にした資産 | 譲渡所得 | 一括償却資産と違い、譲渡所得になる。取得費はゼロ(全額償却済み) |
| 営業権(のれん)・許認可・事業全体を売却(事業譲渡) | 資産ごとに区分 | 棚卸資産は事業所得、固定資産と営業権は譲渡所得(営業権は総合課税)。契約書で対価の内訳を分けておく |
| 車の買い替えで下取りに出した | 譲渡所得 | 下取価額が売却代金。新車の値引きと混同しない |
| 廃棄・スクラップ処分した | 事業所得の必要経費(固定資産除却損) | 未償却残高を除却損に。スクラップ代金は譲渡所得または雑収入 |
| 事業をやめて自宅用(家事用)に転用した | 転用時は課税なし | 転用しただけでは譲渡ではない。その後売ったときに譲渡所得(取得費は転用時の未償却残高をもとに計算) |
| 継続的・反復的に売買している(中古車販売業など) | 事業所得・雑所得 | 営利目的で継続的に行う譲渡は譲渡所得にならない |
なお、山林の伐採・譲渡は山林所得になります。
総合課税の譲渡所得の計算|取得費は未償却残高、50万円控除、長期は2分の1
車両・機械・器具備品など、土地建物と株式以外の資産を売ったときの譲渡所得は、次の式で計算します。
売却代金 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額(最高50万円)= 譲渡所得の金額
- 取得費:買ったときの代金ではなく、これまで必要経費に算入した減価償却費の累計額を差し引いた「未償却残高」です(所得税法38条2項)。購入金額と売却代金の差額で計算するのは誤りです。
- 譲渡費用:売却のための手数料、運搬費、名義変更費用など。
- 特別控除50万円:その年の総合課税の譲渡益の合計から最高50万円を差し引きます。短期と長期の両方がある年は、短期の譲渡益から先に差し引きます。
- 長期(所有期間5年超)は2分の1:取得日から売却日までの所有期間が5年を超えていれば、控除後の金額の2分の1だけを他の所得と合算します。5年以内なら全額を合算します。
- 売却損が出た場合:事業用資産の譲渡損失は、給与所得や事業所得など他の所得と損益通算できます(別荘や高価な貴金属など「生活に通常必要でない資産」の損失は通算できません)。
計算例:7年使った営業車を売却
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得価額 | 300万円 |
| 減価償却費の累計(経費にした分) | 220万円 |
| 取得費(未償却残高) | 80万円 |
| 売却代金(下取価額) | 150万円 |
| 譲渡益 | 150万円 − 80万円 = 70万円 |
| 特別控除 | − 50万円 → 20万円 |
| 所有期間5年超のため2分の1 | 10万円を事業所得などと合算して総合課税 |
この例で「売却代金150万円を事業の雑収入に計上」してしまうと、所得が140万円多く計算され、所得税・住民税・国民健康保険料が過大になります。逆に、下取りを値引きとして処理して売却を申告しないのも誤りです。
土地・建物の譲渡は「分離課税」
土地・建物を売った場合は、給与や事業所得と合算せず、独立した税率で計算する申告分離課税です。50万円の特別控除や2分の1の適用はありません。
| 区分 | 判定 | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間5年超 | 所得税15%+住民税5%(+復興特別所得税 所得税額の2.1%) |
| 短期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間5年以下 | 所得税30%+住民税9%(+復興特別所得税) |
建物の取得費は、事業用に使っていた期間の減価償却費を差し引いた金額です。賃貸物件や店舗を売る方は、自宅の3,000万円控除が使えない代わりに、事業用資産の買換え特例(No.3405)など事業用の特例が検討対象になります。賃貸物件の売却については「大家さん・不動産オーナーの税務 完全ガイド」の売却の章もご覧ください。
事業用資産の売却と消費税
消費税の課税事業者である個人事業主が、事業用の車両・機械・建物を売った場合、その売却代金は消費税の課税売上になります(土地の売却は非課税)。所得税では譲渡所得として別計算でも、消費税の申告では事業の売上と同じ扱いで、課税売上高にも含まれます。免税事業者が売った場合でも、翌々年の納税義務を判定する「1,000万円」の課税売上高には事業用資産の売却代金も含めて判定します。
また、事業用資産の売却益は譲渡所得のため、個人事業税の対象にはなりません。
事業で使っていた車両や機械、土地・建物を売却した年は、譲渡所得の計算と事業所得の申告をあわせて行う必要があります。確定申告だけのご依頼は確定申告、不動産を売却した方の料金は料金表でご案内しています。
横浜市青葉区・都筑区・緑区、川崎市宮前区・麻生区の方は市が尾駅徒歩2分の事務所で、それ以外の方はオンラインで、顧問契約をご検討の方の初回面談を無料でお受けしています(対応エリア)。
まとめ 税理士からのアドバイス
事業用資産を売った年の確定申告は、「所得区分(譲渡所得か事業所得か)」「取得費(未償却残高)」「総合か分離か」「消費税の課税売上」の4点を確認すれば誤りを防げます。譲渡所得には「マイホームを売ったときの3,000万円控除」や「収用等の5,000万円控除」など多くの特例もありますが(No.3223 譲渡所得の特別控除の種類|国税庁)、ほとんどが確定申告での正確な記載や事前の要件確認を条件としています。高額な資産を売る前に一度シミュレーションしておくことが、手元に残る現金を左右します。
事業所得の範囲については「「事業所得」~副業収入は事業所得?経費はどこまで認められる?~」もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 事業用の車を売った代金を、事業の雑収入に入れて申告してしまいました。
A. 本来は譲渡所得です。所得が多く計算されている場合は、申告期限から5年以内であれば更正の請求で訂正できます。逆に譲渡益の申告漏れがある場合は修正申告が必要です。
Q. 個人事業主が法人成りするとき、車や機械を法人に売却した場合はどうなりますか?
A. 個人から法人への売却も譲渡所得です。時価より著しく低い価額(時価の2分の1未満)で売ると時価で売ったものとみなされる(みなし譲渡)ため、未償却残高や中古市場価格を参考に適正な価額で売買契約書を作成します。消費税の課税事業者であれば課税売上にもなります。
Q. 譲渡所得の特別控除にはどんなものがありますか?
A. 総合課税の50万円控除のほか、マイホームの3,000万円控除、収用等の5,000万円控除、事業用資産の買換え特例などがあります。資産の種類と譲渡の状況によって使えるものが異なります。
Q. 事業用資産を譲渡する際の注意点は?
A. 取得費を計算する際に、これまで計上してきた減価償却費を差し引いた未償却残高を使う点、総合課税の場合は50万円控除と長期の2分の1がある点、消費税の課税事業者は課税売上になる点に注意が必要です。
免責事項
本記事は、掲載時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上の判断や助言を行うものではありません。制度は改正されることがありますので、実際の手続きの際は最新の情報をご確認ください。記事の内容に関するご質問や、記事の内容についてのスポットでのご相談はお受けしておりません。顧問契約をご検討の方には、初回無料の面談を行っています。本記事の内容を利用したことにより生じた損害について、当事務所は一切の責任を負いません。
