皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
建設業の一人親方として売上が安定してくると、「そろそろ法人化(法人成り)すべきか」と迷う方が増えてきます。今回は、一人親方が法人化を検討する際のメリット・デメリットについて解説します。特に建設業許可や公共工事の入札参加資格など、法人化によって取引の幅が広がる要素も多いため、税負担だけでなく事業展開の観点からも検討する価値があります。売上規模や取引先の構成によって最適なタイミングは異なるため、他の一人親方の事例をそのまま当てはめるのではなく、ご自身の状況に即して判断することが重要です。法人化は一度決断すると後戻りしにくいため、感覚的な判断ではなく、数値に基づいたシミュレーションを行ったうえで進めることをおすすめします。特に建設業は工事の受注状況によって年ごとの利益変動が大きいため、単年度の数値だけでなく複数年分のシミュレーションをもとに判断することが望ましいでしょう。
法人化の主なメリット
- 所得が増えるほど、個人の所得税(累進課税)より法人税の方が税負担を抑えられる場合がある(法人税の実効税率はおおむね一定であるのに対し、所得税は所得が増えるほど税率が上がるため、その差が節税効果として現れます。ただし利益水準によっては差が小さいこともあるため、実際の税額を試算して比較することが欠かせません)
- 社会的信用が高まり、元請けとの取引や融資の面で有利になることがある(特に大手の元請けでは、法人でなければ新規取引の対象としない場合もあり、受注機会の拡大につながることがあります)
- 社長個人への役員報酬を経費にでき、給与所得控除も活用できる(個人事業の事業主本人には給与という概念がないため、法人化することで給与所得控除という新たな控除を受けられる点は大きな違いです)
- 消費税の免税事業者としての期間を、設立当初改めて活用できる場合がある(要件あり)(ただしインボイス登録の状況によっては免税のメリットを活かせない場合もあるため、事前の確認が必要です。すでにインボイス登録をしている場合は、この免税期間のメリットをそのまま享受できない点にも注意が必要です)。設立時期と決算期の設定次第で免税期間の長さが変わることもあるため、法人化を検討する際は税理士に具体的な試算を依頼すると安心です
法人化のデメリット・注意点
- 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則義務となり、会社負担分の保険料が発生する(役員報酬の額に応じて保険料も上がるため、報酬額の設定は税負担と保険料負担のバランスを考えて決める必要があります。役員報酬を低く設定しすぎると、今度は所得税以外の面で不都合が生じることもあるため、慎重な設計が求められます)
- 設立費用や、赤字でも発生する法人住民税均等割などの固定費がかかる(法人住民税均等割は自治体によって異なりますが、年間数万円程度が赤字であっても発生する点に注意が必要です)
- 会計処理・申告の手続きが個人事業に比べて複雑になる(決算書の作成や法人税・地方税など複数の税目の申告が必要になるため、税理士への依頼を前提に検討する方が多いです。顧問税理士への依頼費用も固定費として発生するため、法人化のシミュレーションにはあらかじめ組み込んでおくとよいでしょう)
- 建設業許可は法人と個人で別扱いとなるため、法人化にあわせて許可の再取得や承継手続きが必要になる(許可の切り替え中に工事を受注できない期間が生じないよう、スケジュールに余裕を持って準備することが大切です。行政書士など専門家と連携し、法人設立と許可切り替えのスケジュールをあらかじめすり合わせておくと安心です)
法人化を検討する目安
一般的には、課税所得(利益)がおおむね800万円前後を継続的に超えてくると、法人化による節税メリットが出やすいといわれています。ただし、社会保険料の負担増や建設業許可の手続きも踏まえ、数値だけでなく事業の将来像とあわせて総合的に判断することが重要です。特に今後従業員を雇用して事業を拡大していく予定があるかどうかも、法人化のタイミングを判断するうえで重要な要素になります。単年度の利益だけでなく、直近数年間の推移を踏まえたうえで、一時的な増加なのか継続的な傾向なのかを見極めることも大切です。単年度だけ大きな工事で利益が跳ねたようなケースでは、法人化を急がず翌年以降の状況も見てから判断することをおすすめします。逆に受注の見通しが立っている場合は、翌期からの法人化を見据えて早めに準備を進めておくと、切り替えのタイミングを逃さずに済みます。
よくあるご質問
Q. 法人化すると建設業許可はどうなりますか?
A. 個人事業主として取得した建設業許可は、そのまま法人には引き継がれません。法人として新たに許可を取得するか、承継の手続きが必要になる場合があります。事前に行政書士等ともご相談ください。許可の切り替えには一定の準備期間がかかることが多いため、法人化を決めた時点で早めに動き出すことをお勧めします。許可が下りるまでの間は個人事業の許可を並行して維持しておくなど、切れ目のない対応が必要になる場合もあります。
Q. 法人化すると社会保険に必ず加入しないといけませんか?
A. 株式会社などの法人は、代表者一人だけの会社であっても、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。国民健康保険・国民年金と比べて保険料の負担が増えることが多いため、法人化のシミュレーションでは社会保険料も含めて比較することが大切です。一方で将来受け取れる年金額が増えるというメリットもあるため、短期的な負担だけでなく長期的な視点も踏まえて検討するとよいでしょう。特に将来の年金受給額を重視する方にとっては、社会保険料の負担増を将来への投資として捉える考え方もあります。
Q. 法人化のタイミングに決まりはありますか?
A. 決まったタイミングはありませんが、消費税の免税期間や決算期の設定など、タイミングによって税負担が変わる場合があるため、事前のシミュレーションをおすすめします。決算期をいつに設定するかによって、繁忙期と決算業務が重なるかどうかも変わってくるため、事業の年間サイクルも踏まえて検討しましょう。工事が集中する時期を避けて決算期を設定しておくと、決算業務と現場作業の両立がしやすくなります。決算期の設定は一度決めると変更に手間がかかるため、繁忙期の見通しを踏まえて最初の段階で慎重に検討しておくことが大切です。
法人化の判断に迷う場合は、専門家に相談することも大切です。「一人親方が顧問税理士をつけるメリットと選び方」もあわせてご覧ください。
まとめ 税理士からのアドバイス
法人化は一度行うと後戻りが難しい判断のため、必ず事前にシミュレーションを行うことをおすすめします。特に社会保険料の負担増や建設業許可の切り替えといった見えにくいコストも含めて、数年先までを見据えたシミュレーションを行うことが望ましいでしょう。目先の税負担の比較だけで判断すると、後から想定外のコストに気づくこともあるため注意が必要です。目先の節税効果だけでなく、事業の将来展望や家族の生活設計も含めて、総合的な視点で判断することが後悔のない選択につながります。
菅原和望税理士事務所では、一人親方の皆様の法人化のご相談から、設立後の税務・会計サポートまで一貫して対応いたします。法人化のタイミングや税負担の比較についても、具体的な数値をもとにシミュレーションいたします。
また、事業規模の拡大にあわせて建設業許可の取得を検討している方は「建設業許可と税務、一人親方の事業拡大の注意点」もあわせてご参考にしてください。
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