皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
建設業の一人親方が入る医療保険には、お住まいの市区町村の国民健康保険(国保)のほかに、建設業の人だけが入れる建設国保(建設業の国民健康保険組合)があります。「建設国保の方が安いと聞いたが本当か」「デメリットはないのか」「法人にしたら抜けないといけないのか」というご相談が多いため、この記事では、横浜市の令和8年度の国保料率と全国建設工事業国民健康保険組合(建設国保)の令和8年度保険料で所得別・家族構成別に比較し、メリット・デメリット、加入条件、法人化後の扱いまでを、横浜市青葉区・都筑区で一人親方の確定申告を担当し、自身も建設会社を経営する税理士が解説します。
建設業・一人親方の税務を全体から確認したい方へ
開業手続き・確定申告・経費・消費税(インボイス)・外注費と給与の判定・社会保険・建設業許可と法人化までを1ページにまとめた建設業・一人親方の税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 市区町村の国保は所得が増えるほど保険料が上がる(横浜市・令和8年度は所得500万円の45歳単身で年約72万円、上限113万円)。建設国保は所得に関係なく年齢と家族の人数で決まる定額(一人親方・40〜54歳で月26,700〜28,200円=年約32〜34万円)。
- 所得がおおむね250万円を超える一人親方は建設国保の方が安く、所得が高いほど差が広がります(所得500万円・単身で年約40万円、所得800万円で年約75万円の差)。家族が多い場合は家族分の保険料(1人月7,500〜13,100円)が加わるため、所得300万円前後では国保と逆転することもあります。
- 建設国保の保険料も国保と同じく経費ではなく社会保険料控除。法人化しても「健康保険被保険者適用除外承認」を受ければ建設国保を続けられます(厚生年金には加入)。加入は建設業に従事する個人事業主・一人親方(従業員5人未満)で、法人は新規加入できません。
建設国保とは|市区町村の国民健康保険との違い
建設国保は、建設業に従事する人とその家族を対象に、国民健康保険法にもとづいて設立された「国民健康保険組合」が運営する健康保険です。全国規模の全国建設工事業国民健康保険組合(建設国保)のほか、神奈川県内の一人親方が加入できるものとして、神奈川県建設連合国民健康保険組合や、建設労働組合を通じて加入する中央建設国民健康保険組合(中建国保)などがあり、保険料・給付・加入ルートは組合ごとに異なります。この記事の金額は全国建設工事業国民健康保険組合の令和8年度保険料で説明します。
| 市区町村の国民健康保険 | 建設国保(全国建設工事業国保) | |
|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 前年の所得に比例(所得割)+人数分の均等割。上限あり(横浜市・令和8年度は年113万円) | 所得に関係なく定額。本人は年齢区分ごと、家族は1人ごとに加算(5人目から免除、介護分を除く) |
| 一人親方本人の年額(40〜54歳) | 所得300万円 約44万円/500万円 約72万円/800万円 約108万円(横浜市、単身) | 約32〜34万円(月26,700〜28,200円、介護分・後期高齢者支援金分込み) |
| 家族の保険料 | 家族1人につき均等割(横浜市・令和8年度は医療40,870円+支援13,380円+子ども分1,770円=年56,020円。40〜64歳は介護16,200円も) | 家族1人につき月7,500円(未就学児)〜13,100円(40〜64歳) |
| 病気・ケガで働けないときの現金給付 | 傷病手当金は原則なし(市区町村国保は実施していないところがほとんど) | 入院給付金・出産手当金などの現金給付あり(金額・条件は組合に確認) |
| 医療費の自己負担 | 3割(高額療養費あり) | 3割(高額療養費あり)。組合によっては独自の給付がある |
| 加入できる人 | 誰でも(他の健康保険に入っていない人) | 建設工事業に従事する個人事業主・一人親方とその従業員(常時5人未満)、家族。法人と従業員5人以上の事業所は新規加入不可 |
| 法人化したとき | 法人の社会保険(協会けんぽ)に移る | 「健康保険被保険者適用除外承認」を受ければ継続できる(厚生年金は加入) |
| 保険料の税務上の扱い | 社会保険料控除(全額) | 社会保険料控除(全額)。事業の経費にはならない |
| 年金 | 国民年金(令和8年度 月17,920円)に別途加入 | 同じく国民年金に別途加入。建設国保は医療保険のみ |
保険料の比較表|所得別・家族構成別(令和8年度・横浜市)
45歳の一人親方を例に、横浜市の国民健康保険料(令和8年度料率)と建設国保の保険料(令和8年度、第5種組合員=一人親方)を比べます。いずれも医療保険の保険料のみで、国民年金(本人・配偶者とも月17,920円)は別途かかります。
単身の場合
| 事業所得(収入−経費) | 横浜市の国保(年額) | 建設国保(年額) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 約29万円 | 約32万円 | 国保の方が約3万円安い |
| 300万円 | 約44万円 | 約32万円 | 建設国保が約12万円安い |
| 500万円 | 約72万円 | 約32万円 | 建設国保が約40万円安い |
| 800万円 | 約108万円 | 約32万円 | 建設国保が約76万円安い |
4人家族(本人45歳・配偶者42歳・小学生2人)の場合
| 事業所得(収入−経費) | 横浜市の国保(年額) | 建設国保(年額) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 約62万円 | 約68万円 | 国保の方が約6万円安い |
| 500万円 | 約90万円 | 約68万円 | 建設国保が約22万円安い |
| 800万円 | 約112万円(上限近く) | 約68万円 | 建設国保が約44万円安い |
国保:横浜市の令和8年度料率(所得割 医療8.33%・支援2.62%・介護2.84%・子ども分0.34%、均等割 40,870円・13,380円・16,200円・1,770円、限度額 67万・26万・17万・3万円)。所得から基礎控除43万円を引いて試算し、介護分は40〜64歳の人数分。建設国保:全国建設工事業国民健康保険組合の令和8年度保険料(第5種・40歳到達月以後〜55歳未満 月26,700円、家族は40〜64歳 13,100円、6歳以上18歳未満 8,500円)。いずれも概算で、組合費や各市区町村の軽減制度は考慮していません。
目安として、単身なら所得250万円前後、家族が多ければ所得350〜400万円前後を超えると建設国保の方が安くなります。売上が伸びて所得が500万円を超えてきた一人親方は、年間数十万円の差になるため、一度は試算する価値があります。逆に、開業したばかりで所得が低い年や、小さなお子さんが多いご家庭では国保の方が安いこともあります。
建設国保のメリット・デメリット
メリット
- 所得が増えても保険料が上がらない。国保のように「去年稼いだ分、今年の保険料が跳ね上がる」ことがなく、資金繰りの見通しが立てやすい。
- 入院給付金・出産手当金などの現金給付がある(市区町村国保にはほぼない)。一人親方は会社員の傷病手当金に相当する保障がないため、働けない期間の備えとして意味がある。
- 法人化しても継続できる(適用除外承認)。法人成りで協会けんぽに移ると、役員報酬に応じた保険料(会社負担+本人負担で報酬の約10〜12%)になるが、建設国保を続ければ定額のまま。
- 家族の保険料は5人目から免除(介護分を除く)。
デメリット・注意点
- 所得が低い年でも保険料は下がらない。国保の7割・5割・2割軽減のような所得に応じた軽減がないため、開業初年度や赤字の年は国保より高くなることがある。
- 家族が多いと家族分の保険料がかさむ。配偶者(40〜64歳)は月13,100円、子どもは月7,500〜8,500円。
- 加入には建設業に従事している実態の確認(請負契約書・請求書・資格証など)と支部での手続きが必要で、市区町村国保のように自動では切り替わらない。加入後に市区町村へ国保の脱退届を出す。
- 組合によって保険料・給付・組合費が異なり、脱退・再加入のルールもある。加入前にパンフレットで条件を確認する。
- 年齢区分は年度当初の年齢で判定され、年度途中では変わらない。
加入できる人・加入の手続き
- 対象:建設工事業に従事する個人事業主・一人親方、その従業員(常時5人未満の個人事業所)とその家族。株式会社・合同会社などの法人、常時5人以上の従業員がいる事業所は新規加入できません。
- 手続き:各都道府県の支部が窓口です。建設業に従事していることの確認書類(請負契約書・請求書・注文書、建設業許可や技能講習の資格など、支部が定めるもの)、住民票、現在の保険証などを提出します。加入が認められたら、市区町村の国保を脱退します(14日以内の届出)。
- 保険料の支払い:口座振替が一般的で、支払った保険料は本人の確定申告で社会保険料控除にします。事業の経費(福利厚生費など)にはできません。従業員分を事業主が負担した場合の扱いは別途ご相談ください。
- 国民年金:建設国保は医療保険だけなので、国民年金(第1号被保険者)には引き続き加入します。配偶者も第1号で、それぞれ月17,920円(令和8年度)です。
法人化したら建設国保はどうなるか|適用除外承認
一人親方が法人成りしたり従業員が5人以上になったりすると、法律上は協会けんぽ(健康保険)と厚生年金への加入義務が生じます。ただし、既に建設国保に加入している人は、「健康保険被保険者適用除外承認申請」を事実発生日(法人設立日など)から14日以内に年金事務所に提出し承認を受ければ、健康保険だけ建設国保を続けることができます(組合理事長の証明が必要)。厚生年金は適用除外にならないため、厚生年金には加入します(保険料は役員報酬の18.3%を会社と本人で折半)。
この仕組みがあるため、建設業では「法人化する前に建設国保に入っておく」ことが実務上の定石になっています。法人を設立してから建設国保に入ることはできません。法人化を考えている一人親方は、設立の数か月前までに加入を済ませておいてください。法人化後の社会保険料の全体像は「法人化すると社会保険料はいくら変わる?役員報酬別の早見表」をご覧ください。
よくあるご質問
Q. 建設国保の保険料は経費になりますか?
A. なりません。国保と同じく、本人・家族分を支払った人の社会保険料控除(所得控除)です。確定申告書の社会保険料控除欄に、組合から届く納付証明の金額を記入します。
Q. 所得がまだ少ないのですが、建設国保に入った方がよいですか?
A. 単身で所得250万円以下、家族が多くて所得350万円以下くらいなら、市区町村の国保の方が安いことが多いです。ただし、将来法人化する予定があるなら、所得が低いうちに加入しておくと法人化後も継続できます。保険料の差と将来の計画をあわせて判断してください。
Q. 家族が多い場合はどちらが有利ですか?
A. 建設国保は家族1人ごとに月7,500〜13,100円が加算されるため、家族が多いほど国保との差は縮まります。上の4人家族の表のとおり、所得300万円では国保の方が安く、500万円を超えると建設国保が安くなります。5人目以降の家族は免除(介護分を除く)されるため、お子さんが4人以上なら建設国保が有利になりやすいです。
Q. 一人親方労災保険と建設国保は別のものですか?
A. 別の制度です。労災保険(特別加入)は仕事中・通勤中のケガや病気に対する補償で、建設国保は仕事以外も含めた日常の医療保険です。仕事中のケガは労災、休日のケガや病気は建設国保(または国保)と使い分けます。労災の特別加入保険料も社会保険料控除です(「一人親方労災保険の特別加入制度と経費計上の考え方」)。
Q. 神奈川県で一人親方が入れる建設業の国保組合はどこですか?
A. 全国建設工事業国民健康保険組合(建設国保)の神奈川の支部のほか、神奈川県建設連合国民健康保険組合、建設労働組合を通じて加入する中央建設国民健康保険組合(中建国保)などがあります。保険料は年齢区分・家族の人数で決まる定額という点は共通ですが、金額・給付・組合費・加入ルートが異なるため、複数の組合のパンフレットを取り寄せて比べてください。
まとめ 税理士からのアドバイス
一人親方の医療保険は、「所得が低いうちは国保、所得が増えてきたら建設国保」が基本で、分かれ目は単身で所得250万円前後、家族が多ければ350〜400万円前後です。所得500万円を超えると年間数十万円の差になります。加えて、法人化を見据えるなら、法人にする前に建設国保へ加入しておくと、法人化後も定額の保険料を維持できます。当事務所では、確定申告の所得をもとにした国保と建設国保の試算、法人化のシミュレーションをあわせて行っています。
一人親方の法人化については「一人親方は法人化すべき?個人事業主との違いを比較」、建設業の社会保険の全体像は「建設業・一人親方の税務 完全ガイド」の社会保険の章もあわせてご覧ください。
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