皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
飲食店を経営する個人事業主にとって、確定申告は避けて通れない毎年の手続きです。日々の売上・仕入管理に追われるなかで、税務の全体像を把握できずに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。特に初めて確定申告を迎える方は、何から手をつければよいか分からず、期限直前になって慌てて資料集めを始めるケースも少なくありません。日々の営業に追われる飲食店経営では、こうした事務作業を後回しにしがちですが、早めの準備が結果的に自分自身の負担軽減につながります。今回は、飲食店の確定申告について、開業時の手続きから青色申告、消費税、経費計上まで、押さえておきたいポイントを税理士が解説します。
飲食店の税務を全体から確認したい方へ
開業手続き・確定申告・経費・軽減税率と消費税(インボイス)・人件費と社会保険・税務調査・法人化・閉店までを1ページにまとめた飲食店の税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 飲食店(個人事業主)の確定申告は、1月1日〜12月31日の売上−仕入・経費=事業所得を翌年2月16日〜3月15日に申告します。やり方は「レジ日計表・デリバリー明細で売上集計→仕入・経費の集計と年末棚卸→控除証明書→青色申告決算書→e-Taxで申告・納付」の5ステップです。
- 青色申告+複式簿記+e-Taxで65万円控除(令和9年分以後は最大75万円)、赤字の3年繰越、家族への給与(青色事業専従者給与)が使えます。食材・酒類の仕入、家賃、水道光熱費、厨房機器の減価償却、グルメサイト掲載料、決済・デリバリー手数料が主な経費で、まかないは福利厚生費、自分や家族が食べた分は売上(自家消費)に計上します。
- 2年前の売上が1,000万円を超えると消費税の申告も必要(申告期限は3月31日)。店内飲食10%・持ち帰り8%の区分と、簡易課税なら店内は第4種(60%)・持ち帰りは第3種(70%)になる点が飲食店特有です。居酒屋・バーは現金売上の管理と酒類の扱いに注意が必要です。
飲食店の確定申告とは|時期・対象となる所得・個人事業税
個人事業主として飲食店を営む場合、毎年1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。売上から仕入や経費を差し引いた事業所得に対して所得税が課税されるため、日々の記帳が申告内容の正確性を左右します。売上を現金・キャッシュレス決済・デリバリーなど手段ごとに正しく集計し、仕入や経費と突き合わせる作業が申告の土台になります。決済手段が多様化している近年は、入金サイクルや手数料の違いも把握しておかないと、月次の資金繰りと帳簿上の数字にズレが生じやすくなります。特にキャッシュレス決済は入金が数日後になることが多いため、売上計上日と実際の入金日を区別して管理しておくことが大切です。また、飲食店業は個人事業税の第一種事業に該当し、年290万円の事業主控除を超える部分に5%の税率で課税される点にも注意が必要です。申告期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、余裕を持ったスケジュールで準備を進めましょう。確定申告の直前は税理士への依頼が集中しやすい時期でもあるため、早めに相談先を確保しておくことをおすすめします。特に開業初年度は分からないことも多いため、早い段階で顧問税理士との関係を築いておくと、日々の相談もしやすくなります。
青色申告と白色申告、どちらを選ぶべきか
- 令和8年分までの青色申告では、複式簿記で記帳したうえで、期限内にe-Taxで申告する(または優良な電子帳簿の保存を行う)ことで、最大65万円の青色申告特別控除が受けられます(複式簿記で記帳していても、このどちらにも対応していない場合は55万円、簡易な帳簿による記帳の場合や、申告が期限に遅れた場合は10万円です)。令和9年分からは制度が変わり、複式簿記で記帳して期限内にe-Taxで申告すると65万円(優良な電子帳簿の保存などの要件も満たすと75万円)、複式簿記で記帳していても書面で申告すると10万円になります。簡易な帳簿の場合は令和9年分からも10万円ですが、前々年の事業の収入が1,000万円を超える方は、原則としてこの控除を受けられなくなります。複式簿記は難しく感じられがちですが、クラウド会計ソフトを使えば日々の入力は簡易な仕訳で済み、決算書は自動で作成されるケースがほとんどです
- 赤字が出た場合、青色申告であれば翌年以降3年間にわたって赤字を繰り越し、将来の利益と相殺できる純損失の繰越控除が可能です。開業初年度から数年は先行投資がかさみ赤字になりやすいため、この制度を使えるかどうかで数年後の税負担が大きく変わることもあります。開業初年度に厨房設備などの投資がかさみやすい飲食店では特に有効な制度です
- 白色申告は単式簿記による簡易な記帳で済む一方、青色申告特別控除が適用されないため税負担が大きくなりやすい点がデメリットです。記帳の手間の差に対して税負担の差が大きいため、開業後しばらくしたら青色申告への切り替えを検討する事業者が多く見られます
- 配偶者や親族に接客や仕込みを手伝ってもらい給与を支払う場合、青色事業専従者給与を活用すれば、届出書に記載した金額の範囲内で、仕事の内容に見合った金額の給与を必要経費にできます(白色申告では事業専従者控除として上限額が定められています)。家族経営の飲食店では特にこの制度の活用有無で税負担が大きく変わることがあります
開業当初は記帳の負担を考えて白色申告を選ぶ方もいますが、売上が安定し設備投資や人件費が増えてきた飲食店であれば、青色申告のメリットは大きいといえるでしょう。青色申告を選択するには、青色申告をしようとする年の3月15日まで(1月16日以後に新規開業した場合は、開業の日から2か月以内)に青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。
飲食店特有の経費・消費税のポイント|軽減税率・簡易課税・修繕費
飲食店では、食材費や水道光熱費、厨房設備の減価償却費、店舗の家賃など特有の経費項目が多くあります。同じ食材でも店内飲食は10%、テイクアウトやデリバリーは8%の軽減税率が適用されるため、レジやPOSシステムでの税率区分やインボイス制度への対応も欠かせません。イートインスペースを併設する店舗では、注文時にお客様へ利用形態を確認するオペレーションを徹底しないと、税率区分に誤りが生じやすくなります。消費税の申告方法についても、簡易課税を選択した場合、飲食店業は第四種事業としてみなし仕入率60%が適用されるため、実際の仕入割合と比較して原則課税・簡易課税のどちらが有利かを事前にシミュレーションしておくことが大切です。判断を誤ると納税額が数十万円単位で変わることもあるため、決算の数字が固まった段階で一度専門家に確認しておくと安心です。また、店舗の改装や厨房機器の入れ替えは、資本的支出として減価償却の対象になるか修繕費として一括で経費にできるかの判断も税務上のポイントになります。判断を誤ると経費計上の時期がずれ、その年の所得税額に影響することもあるため、高額な支出の前には税理士に確認しておくと安心です。特に開店から数年が経過した店舗は、老朽化した設備の更新時期が重なりやすいため、計画的に資金を準備しておくことも大切です。
確定申告に必要な書類・準備するもの
確定申告書のほか、青色申告決算書(または収支内訳書)、生命保険料控除証明書や国民健康保険料の支払通知書などの各種控除証明書、帳簿や領収書・レシートといった保存書類が必要です。帳簿類は原則7年間(一部書類は5年間)の保存が義務付けられているため、日頃からクラウド会計ソフトなどを活用してレシートをデータで管理し、記帳を習慣化しておくと、申告時期の負担を大きく減らすことができます。紙のレシートは経年で文字が薄れることもあるため、早めにスキャンやスマートフォン撮影でデータ化しておくと安心です。特に感熱紙のレシートは半年ほどで印字が読み取れなくなることもあるため、受け取ったらできるだけ早くデータ化する習慣をつけておきましょう。
飲食店の確定申告のやり方|5つのステップ
- 売上を集計する:レジの日計表(税率別・決済手段別)、デリバリー代行(Uber Eats・出前館など)の売上明細、カード・QR決済の明細を月ごとに集計します。手数料を差し引く前の総額を売上に計上し、手数料は支払手数料にします。自分や家族が食べた分(自家消費)は、仕入価額以上かつ通常の販売価額の70%以上の金額で売上に計上します。
- 仕入・経費を集計し、年末に棚卸をする:食材・酒類の請求書、レシート、家賃・光熱費の引落しを会計ソフトに入力します。12月31日時点の食材・酒類・消耗品の在庫を数え、仕入から差し引いて翌年に繰り越します。
- 控除証明書を集める:国民年金・国民健康保険・小規模企業共済の支払証明、生命保険料控除証明書、医療費の明細、ふるさと納税の受領証などを用意します。
- 青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表)を作る:会計ソフトを使えば帳簿から自動で作成されます。厨房機器や内装の減価償却費、12月分で入金が翌年になるカード売上(売掛金)、月末締めの仕入(買掛金)の計上を確認します。
- 確定申告書を作成し、e-Taxで送信・納付する:マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、国税庁の確定申告書等作成コーナーからe-Taxで送信できます。65万円控除にはe-Taxでの申告(または優良な電子帳簿の保存)が条件です。消費税の課税事業者は、所得税(3月15日)とは別に3月31日までに消費税の申告・納付をします。
飲食店の経費一覧|仕入・まかない・自家消費・手数料の処理
| 支出 | 科目・処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 食材・飲料・酒類の仕入 | 仕入高(売上原価) | 年末の在庫を棚卸して差し引く。食材は8%、酒類・ソフトドリンク(店内提供用)は10%で区分 |
| 従業員のまかない | 福利厚生費 | 従業員が半額以上を負担し、かつ事業主負担が月3,500円(税抜)以下なら給与課税なし。無料提供は原則として給与扱い |
| 自分・家族が食べた分 | 売上(自家消費)に計上 | 仕入価額以上、かつ通常販売価額の70%以上の金額で計上 |
| 店舗の家賃・共益費・水道光熱費 | 地代家賃・水道光熱費 | 自宅兼店舗は面積などで按分 |
| 厨房機器・冷蔵庫・内装工事 | 減価償却(10万円未満は消耗品費) | 耐用年数は厨房設備8年、冷蔵庫6年、内装10〜15年など。詳細は「飲食店の経費と減価償却」 |
| 割り箸・おしぼり・洗剤・包材 | 消耗品費 | テイクアウト用容器は持ち帰り売上に対応する経費 |
| グルメサイト掲載料・SNS広告・チラシ | 広告宣伝費 | 予約サイトの成果報酬型手数料も広告宣伝費または支払手数料 |
| カード・QR決済手数料、デリバリー代行手数料 | 支払手数料 | 売上から差し引かず、総額の売上と手数料を別々に計上する |
| アルバイトの給与・交通費 | 給料賃金・旅費交通費 | 給与は源泉徴収と年末調整が必要。詳細は「飲食店の人件費と社会保険」 |
| 個人事業税・消費税・固定資産税(店舗部分) | 租税公課 | 所得税・住民税・国民年金・国民健康保険料は経費ではなく所得控除 |
居酒屋・バーの確定申告で注意する点
- 現金売上の管理:夜の営業で現金比率が高い業態は、売上の計上漏れを疑われやすい業種です。レジの日計表と現金残高を毎日照合し、通帳への入金額と帳簿の売上が一致するようにしておくことが、税務調査で最も効く対策です。
- 酒類の扱い:店内で提供する酒類に免許は不要ですが、ボトルや缶を持ち帰り販売する場合は酒類小売業免許が必要です。持ち帰りでも酒類は軽減税率の対象外(10%)です。
- 深夜営業の届出:午前0時以降に酒類を提供する場合は、警察署への「深夜酒類提供飲食店営業開始届出」が必要です(税務とは別の手続きですが、無届のまま営業していると他の手続きにも影響します)。
- 自家消費・まかない:営業後に自分や家族が飲食した分は自家消費として売上に計上します。スタッフへのまかないは上の表のとおり福利厚生費の要件を確認します。
- お通し・チャージ・サービス料:すべて売上です。カード決済の売上と手数料は総額で計上します。
よくあるご質問
Q. 開業したばかりですが、初年度から青色申告はできますか?
A. 開業日から2か月以内(1月1日〜15日開業の場合はその年の3月15日まで)に青色申告承認申請書を提出すれば、開業初年度から青色申告が可能です。提出が遅れるとその年は白色申告となり、65万円の特別控除や赤字の繰越控除が受けられなくなるため、期限までに開業届と同時に提出しておくと安心です。
Q. 確定申告を税理士に依頼するメリットはありますか?
A. 日々の記帳や経費区分の相談ができるほか、税務調査への対応や資金繰りのアドバイスも受けられます。特に食材費や消耗品費など経費区分の判断に迷いやすい業種のため、税理士に確認しながら記帳を進めることで経費計上漏れに気づきやすくなります。忙しい飲食店経営の中で申告業務の負担を減らせる点も大きなメリットです。
Q. 確定申告を税理士に依頼するタイミングはいつがよいですか?
A. 開業直後や、売上が伸びて経理が煩雑になってきたタイミングでのご相談が多いです。確定申告の直前になって相談すると資料の準備に時間がかかり、十分な対策が取れないことがあります。早めに依頼することで、青色申告への切り替えや経費区分の見直しなど、節税につながる準備を余裕をもって進められます。
まとめ 税理士からのアドバイス
飲食店の確定申告は、開業手続き・記帳・消費税・経費計上・専従者給与など押さえるべきポイントが多岐にわたります。日々の業務に追われる中で一つひとつを正確に処理するのは容易ではないため、まずはご自身の状況を整理し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
菅原和望税理士事務所では、飲食店経営者様の確定申告や記帳代行、税務相談まで一貫してサポートいたします。
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確定申告に関する詳しい情報は、国税庁の公式サイトでもご確認いただけます。
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