皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
飲食店経営において、アルバイト・パートの人件費と社会保険の取扱いは、日々の労務管理と密接に関わる重要なテーマです。特にシフト制で勤務時間が月ごとに変動する飲食店では、社会保険の加入判定を毎月見直す必要が生じることもあります。特に人手不足が続く飲食業界では、採用や定着のために労働条件を工夫する店舗も多く、それに伴って社会保険の加入要否の判断も複雑になりがちです。時給の引き上げやシフトの融通など、他店との差別化を図るほど、労務管理の手間も比例して増えていく傾向があります。労務管理の手間が増える分、給与計算ソフトなどのツールを活用して効率化を図ることも検討する価値があります。今回は、飲食店の人件費と社会保険の基本的な考え方について解説します。
飲食店の税務を全体から確認したい方へ
開業手続き・確定申告・経費・軽減税率と消費税(インボイス)・人件費と社会保険・税務調査・法人化・閉店までを1ページにまとめた飲食店の税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 労災保険は1人でも雇えば加入、雇用保険は週20時間以上(学生は原則対象外)。健康保険・厚生年金は、法人の飲食店なら正社員の4分の3以上働くアルバイト・パートが加入、従業員51人以上の企業なら週20時間以上で加入です。
- 個人経営の飲食店は現在、従業員5人以上でも健康保険・厚生年金の強制加入ではありません(任意適用は可)。2029年10月以後に新たに始める個人事業所は業種を問わず5人以上で適用になります。
- まかないは従業員が半額以上負担し会社負担が月3,500円以下なら非課税、満たさなければ給与扱い。年収の壁(税136万円・社会保険130万円)はシフト作成時に従業員と共有します。
飲食店の人件費に含まれるもの
- 給与・賞与(アルバイト・パート・正社員。時給制・月給制など雇用形態により計算方法が異なります)。深夜勤務や残業が発生する場合は、割増賃金の計算も別途必要になります。給与計算ソフトに割増率を設定しておくと、計算ミスを防ぎながら日々の処理を効率化できます
- 法定福利費(健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険のうち会社負担分)。従業員数が増えるほど法定福利費の負担も増すため、採用計画の段階から資金繰りに織り込んでおくことが大切です。新規出店など人員を大きく増やす計画がある場合は、法定福利費の増加分も含めた資金計画を事前に立てておくと安心です
- 賄い費用(食事の価額の半分以上を従業員が負担するなど、一定の要件のもとで福利厚生費として扱われる場合も)。要件を満たさないと給与として課税対象になるため、金額設定は事前に確認しておく必要があります
- 通勤手当や制服代・クリーニング代などの諸手当(通勤手当は一定額まで非課税です)。制服代を会社が負担する場合の取扱いも、支給方法によって課税・非課税が分かれることがあります
社会保険・労働保険の加入基準
従業員を1人でも雇用すると、労災保険への加入が必要です。労災保険はアルバイト・パートを含む全ての労働者が対象で、保険料は全額事業主負担となります。雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上などの要件を満たす従業員が加入対象となります。学生アルバイトは原則として雇用保険の対象外となる点にも注意が必要です。社会保険(健康保険・厚生年金)は、法人の飲食店では、一定の要件を満たすパート・アルバイトも加入対象となります。個人事業の飲食店は、現在は従業員が常時5人以上でも、加入が義務づけられる事業所には当たりません(従業員の半数以上の同意を得て、任意で適用を受けることはできます)。2029年10月からは、常時5人以上を雇用する個人事業所は業種にかかわらず適用対象になります(2029年10月時点ですでにある事業所は、当分の間、対象外とされています)。法人化を検討している場合や、今後の制度改正に備える場合は、従業員数の推移を記録しておくとよいでしょう。加入が義務づけられる事業所では、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であれば、パート・アルバイトも社会保険の加入対象となります。この基準を満たすかどうかは、契約上の労働時間だけでなく実際の勤務実態で判断されることもあるため、シフト表と実際の勤務記録に大きな乖離がないか定期的に確認しておくことが望ましいです。また、従業員51人以上の企業では、週20時間以上などの要件を満たす短時間労働者(学生を除く)も加入対象に含まれるため(月額8.8万円以上という賃金の要件は2026年10月に撤廃されました)、店舗数や従業員数の状況に応じて加入基準が変わる点に注意が必要です。この適用対象となる企業規模の基準は法改正により段階的に引き下げられてきているため、現時点で対象外であっても将来的に対象となる可能性を踏まえて準備しておくと安心です。 なお、深夜(22時〜翌5時)の勤務には深夜割増賃金(通常の賃金の25%以上)が発生するため、居酒屋やバーなど深夜営業が中心の飲食店では、通常の時給に加えてこの割増分を人件費として見込んでおく必要があります。シフトを組む際の人件費計算にも反映させる必要があります。
扶養の範囲内で働きたい従業員への対応
「年収の壁」を意識して、配偶者やご家族の扶養に入りながら働きたいという希望を持つ従業員も多くいます。税金の面では、令和8年分・令和9年分は、扶養控除や配偶者控除の対象になる給与収入の目安が136万円以下(令和7年分は123万円以下)、本人に所得税がかかり始める目安が178万円(令和7年分は160万円)です。以前の「103万円の壁」は令和6年分までの基準です。社会保険の面では、130万円(19歳以上23歳未満の方は150万円。配偶者を除く)が主に社会保険の被扶養者から外れる目安とされています。「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金の要件(月額8.8万円以上)は2026年10月に撤廃され、従業員51人以上の企業では、週20時間以上働くなどの要件を満たす学生以外の従業員が、賃金の額にかかわらず社会保険の加入対象になります。それぞれの壁を超えると本人の手取りや扶養者の税負担にも影響が出るため、従業員自身が正しく理解しないまま働いていると、後になって想定外の負担が発生することもあります。採用面談やシフト相談の際に、こうした年収の壁について簡単に説明しておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。これらの壁を意識してシフトの時間数を調整したいという希望が出ることも多いため、シフト作成担当者と情報共有しながら、繁忙期の人員確保とのバランスを取ることが重要です。年末年始や繁忙期に一時的に労働時間が増えてしまい、扶養の範囲を超えてしまうケースもあるため、年間を通じた労働時間の見込みを従業員と共有しておくことをおすすめします。
よくあるご質問
Q. アルバイトの社会保険加入基準はどう判断すればいいですか?
A. 事業所の規模や従業員数、労働時間などの要件により判断が異なります(短時間労働者の賃金の要件は2026年10月に撤廃されました)。契約時点の労働条件通知書に記載された内容と、実際のシフト実績に差異がないかも確認のポイントになります。特に複数店舗を運営している場合、店舗ごとの従業員数の数え方によって加入基準が変わることもあるため、個別の状況に応じて社会保険労務士にご相談いただくことをおすすめします。法人の場合は、従業員数を店舗ごとではなく法人全体で数えて判定するため、店舗展開を検討している場合は早めに確認しておくと安心です。
Q. 賄い費用は給与として課税されますか?
A. 従業員負担額が食事の価額の半分以上であること、かつ会社負担額が一定額以下であることなど、一定の要件を満たせば給与として課税されない場合があります。要件を満たさない場合は、食事の価額から従業員の負担額を差し引いた金額が給与として源泉徴収の対象になるため、金額設定には注意が必要です。まかない専用のメニューを設定し、価額を明確にしておくことで、後から課税・非課税の判断がしやすくなります。
まとめ 顧問税理士からのアドバイス
人件費・社会保険の取扱いは、税務調査でも確認されやすいポイントです。特に架空人件費や勤務実態のない従業員への給与計上は重点的に確認される項目のため、日頃からタイムカードなど客観的な勤怠記録を残しておくことが大切です。特にアルバイト・パートが多い飲食店では、労働時間や賃金の管理が複雑になりやすいため、日頃から正確な給与計算と記帳を行い、不明点は専門家に相談することをおすすめします。 特に社会保険の加入基準は法改正で変わることもあるため、最新の基準を踏まえた定期的な見直しや社会保険労務士への相談をおすすめします。
菅原和望税理士事務所では、飲食店の給与計算や記帳代行、確定申告などの税務に関するご相談を承っております。
確定申告の基本については「飲食店の確定申告ガイド」、経費の取扱いについては「飲食店の経費と設備投資」、会計ソフトの選び方については「飲食店におすすめの会計ソフト」もあわせてご覧ください。
飲食店の税務・会計に関する関連記事
飲食店の税務を全体像から確認したい方は、まず飲食店の税務 完全ガイドをご覧ください。個別のテーマは以下の記事で解説しています。
- 横浜市青葉区・都筑区の飲食店が顧問税理士をつけるメリットと選び方を解説
- 飲食店とインボイス制度|仕入税額控除と対応のポイントを解説
- 飲食店におすすめの会計ソフト|POSレジ連携と記帳のポイントを解説
- 飲食店の廃業・閉店の手続きと税務上の注意点を解説
- 飲食店の消費税申告|簡易課税と原則課税どちらが得かを解説
- 飲食店の確定申告ガイド|個人事業主が知っておきたい税務手続きを税理士が解説
- 飲食店の税務調査で気をつけたいポイント|現金商売の注意点を解説
- 飲食店の経費と設備投資|食材費・水道光熱費・厨房機器の減価償却を解説
- 飲食店の資金繰り対策|赤字を防ぐポイントと資金調達方法を解説
- 飲食店の軽減税率|店内飲食とテイクアウトの税率区分を解説
- 飲食店は法人化すべき?個人事業主との違いを税理士が比較
- 飲食店は白色申告と青色申告どちらが得か|65万円控除のメリットを解説
- 飲食店開業時の税務手続きまとめ|開業届・青色申告承認申請書を解説
社会保険の加入基準は日本年金機構 適用事業所と被保険者、まかないの非課税要件は国税庁 No.2594 食事を支給したときをご確認ください。
免責事項
本記事は、掲載時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上の判断や助言を行うものではありません。制度は改正されることがありますので、実際の手続きの際は最新の情報をご確認ください。記事の内容に関するご質問や、記事の内容についてのスポットでのご相談はお受けしておりません。顧問契約をご検討の方には、初回無料の面談を行っています。本記事の内容を利用したことにより生じた損害について、当事務所は一切の責任を負いません。
