皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
飲食店経営では、食材費や水道光熱費など日々の経費に加え、厨房設備など高額な資産の取得も欠かせません。経費として認められる範囲を正しく理解しておくことは、税負担を適正に抑えるだけでなく、税務調査で指摘を受けないためにも重要です。判断に迷う支出を放置していると、確定申告の直前にまとめて処理することになり、正確な区分が難しくなることもあります。特に判断に迷った支出は、その場でメモを残しておくだけでも、後からの確認作業が大幅に楽になります。今回は、飲食店特有の経費項目と、設備投資にかかる減価償却の考え方について解説します。 特に開業して間もない時期は、私的な支出と事業用の支出が混在しやすいため、レシートの分類方法を早めに決めておくことをおすすめします。分類ルールを最初に決めておけば、日々の記帳作業も迷わず進められるようになります。
飲食店の税務を全体から確認したい方へ
開業手続き・確定申告・経費・軽減税率と消費税(インボイス)・人件費と社会保険・税務調査・法人化・閉店までを1ページにまとめた飲食店の税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 飲食店の経費は食材費・水道光熱費・家賃・消耗品・広告費・人件費が中心。自宅兼店舗の光熱費や家賃は面積・時間で按分し、基準を毎年そろえます。
- 10万円以上の厨房機器・什器は減価償却。業務用冷蔵庫6年・ガスレンジなど厨房設備8年・食器2年・テーブル椅子5年が目安で、青色申告なら30万円未満(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満)はその年に全額経費にできます(年300万円まで)。
- まかない・交際費・試作費は目的と相手の記録があれば経費。税務調査で最も見られる項目なので、レシートにその場でメモを残します。
飲食店で経費にできる主な支出
- 食材費・飲料費などの仕入原価(廃棄・ロスが出た場合も棚卸で調整します)。仕入先ごとに支払いサイトが異なる場合、月末時点で未払いの仕入も正しく計上する必要があります。複数の仕入先を利用している店舗ほど、支払いサイトの違いによる未払金の把握が煩雑になりやすいため、仕入先ごとに一覧化しておくと安心です
- 水道光熱費(調理・空調・冷蔵設備等。自宅兼店舗の場合は使用割合に応じた按分が必要です)。按分割合は床面積や使用時間などの合理的な基準で決め、毎年同じ基準を継続することが望ましいです。基準を変更する場合は、変更した合理的な理由を説明できるようにしておくことが大切です
- 店舗の家賃・共益費(契約時の敷金・保証金は経費と資産計上に分けて処理します)。返還されない敷金・保証金は、契約内容に応じて繰延資産として償却する場合もあります。契約書に返還条件が明記されているか事前に確認し、契約更新のタイミングでも扱いに変更がないか見直しておくと安心です
- 消耗品費(おしぼり・食器・洗剤・割り箸等の使い捨て備品)。まとめ買いした場合でも、使用の都度経費にするのが原則である点に注意が必要です。ただし少額かつ短期間で消費するものは、購入時に一括で経費処理しても実務上問題にならないことが多いです
- 広告宣伝費(チラシ・SNS運用費・グルメサイトへの掲載料等)。グルメサイトの掲載料は成果報酬型か定額制かによって計上時期の考え方が異なる場合があります。契約プランを見直す際は、費用対効果とあわせて経理処理への影響も確認しておくとよいでしょう
- 従業員の給与・法定福利費(アルバイト・パートの社会保険加入要件にも注意が必要です)。給与計算ソフトとタイムカードを連携させておくと、勤怠と給与の整合性を保ちやすくなります。アルバイトの人数が多い店舗ほど、勤怠管理の効率化が経理業務全体の負担軽減につながります
厨房機器と減価償却
厨房機器や什器備品など、取得価額が10万円以上のものは原則として減価償却資産として扱い、耐用年数にわたって費用化します。たとえば取得価額80万円の冷蔵庫は、耐用年数(冷蔵陳列棚等はおおむね6年)にわたって毎年一定額を経費にしていきますが、償却方法(定額法・定率法)によって毎年の経費計上額が変わるため、資金繰りの計画にもあわせて考慮しておくとよいでしょう、取得価額28万円の券売機であれば、青色申告者の場合「少額減価償却資産の特例」(取得価額30万円未満、令和8年4月1日以後に取得するものは40万円未満)を使ってその年に全額を経費として計上することも可能です(年間合計300万円まで)。この特例は白色申告では使えないため、設備投資が多い年ほど青色申告のメリットが大きくなります。10万円未満のものや使用可能期間が1年未満のものは、取得時に全額を消耗品費として処理できます。開業時にまとめて購入する小型調理器具などは、この基準に沿って経費と資産を仕分けておくとスムーズです。
飲食店の厨房機器・設備の耐用年数一覧
減価償却の期間(法定耐用年数)は資産の種類ごとに決まっています。飲食店でよく購入する資産の目安は次のとおりです。
| 資産 | 区分 | 法定耐用年数 |
|---|---|---|
| 業務用冷蔵庫・冷凍庫・製氷機 | 器具備品(電気冷蔵庫等) | 6年 |
| ガスレンジ・フライヤー・オーブン・食器洗浄機など厨房設備 | 機械装置(飲食店業用設備) | 8年 |
| 食器・鍋・包丁などの調理用品 | 器具備品(陶磁器製・ガラス製は2年、その他は5年) | 2年/5年 |
| テーブル・椅子・カウンター椅子(接客業用) | 器具備品 | 5年 |
| レジスター・券売機・POS端末 | 器具備品 | 5年 |
| 看板(金属製10年・その他3年)、ネオンサイン | 器具備品 | 3年〜10年 |
| エアコン(天井埋込型などダクト式は建物附属設備) | 器具備品6年/建物附属設備13〜15年 | 6年〜15年 |
| 内装工事(賃借店舗の造作) | 建物(合理的に見積もった年数) | 10〜15年が目安 |
| 電気・給排水・ガス設備 | 建物附属設備 | 15年 |
中古品は後述の簡便法で短くできます。1台(1組)の取得価額が10万円未満なら消耗品費、20万円未満なら3年で均等償却する一括償却資産、青色申告者は30万円未満(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満)なら全額をその年の経費にする少額減価償却資産の特例(年300万円まで)が選べます。内装工事は「内装」「設備」「備品」に分けた見積書をもらっておくと、区分と償却期間の整理が容易です。
経費計上で注意したいポイント
自宅と店舗を兼用している場合の家事按分や、賄い(まかない)にかかる食材費の取扱いなど、飲食店特有の判断が必要な項目もあります。按分基準は一度決めたら毎年継続して適用することが望ましく、根拠となる資料(床面積の図面など)を残しておくと安心です。また、開店前の試作や新メニュー開発にかかった食材費、取引先との会食にかかる交際費など、事業との関連性を明確にしておく必要がある支出も少なくありません。新メニュー開発は季節ごとに行う店舗も多いため、試作費用は開発中のメニュー名や実施日とあわせて記録しておくと説明がしやすくなります。用途や参加者、目的をメモに残しておくと、後から経費区分を見直す際にも役立ちます。特に交際費は税務調査で確認されやすい項目のため、レシートの余白などにその場で目的を書き添えておく習慣が有効です。日頃から領収書やレシートを整理し、正しく記帳することが大切です。レシートの日付が消えやすい感熱紙の場合は、早めにコピーやスキャンでデータ化しておくと、後から金額が判読できなくなるトラブルを防げます。 スタッフの制服代やクリーニング代も、業務上必要なものであれば経費として認められます。私用でも使えるような一般的な衣類の場合は、業務専用であることを説明できる工夫(店名の刺繍など)があると判断がしやすくなります。
よくあるご質問
Q. 賄い(まかない)の食材費は経費にできますか?
A. 従業員に提供する賄いの食材費は、食事の価額の半分以上を従業員が負担していることなど一定の要件を満たせば福利厚生費として経費にできます。会社負担額にも上限があるため、金額のバランスを事前に確認しておくと安心です。要件を満たさず無償や低額で提供している場合は、その食事の価額が給与として課税される可能性があるため、提供方法や金額設定に注意が必要です。まかない専用のメニューを用意し、価額を明確にしておくことで、後から課税・非課税の判断がしやすくなります。まかないの提供記録を日々つけておくと、税務調査の際にも実態を説明しやすくなります。
Q. 中古の厨房機器を購入した場合の耐用年数は?
A. 中古資産は、新品とは異なる耐用年数を用いて計算します。見積耐用年数の算定方法を誤ると、その後の減価償却費全体に影響するため、購入時点で正確に計算しておくことが大切です。簡便法では、法定耐用年数の全部を経過した資産であればその法定耐用年数の20%、一部を経過した資産であれば(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%で見積ることができます(いずれも2年未満の場合は2年とします)。計算方法を誤ると減価償却費が過大・過少になるため、詳しくは税理士にご相談ください。中古厨房機器は新品より初期投資を抑えられる一方、耐用年数の見積りが複雑になりやすいため、購入前に試算しておくと安心です。開業資金を抑えたい場合は中古機器の活用も選択肢のひとつですが、修理費用や耐用年数も含めて総合的に判断することをおすすめします。
まとめ 税理士からのアドバイス
経費の範囲や減価償却の判断は、税務調査でも確認されやすいポイントであり、判断を誤ると後から修正申告が必要になることもあります。特に高額な設備投資を行った年は、経費と資産計上の区分について事前に確認しておくと、想定外の税負担を防げます。日々の記帳を習慣化し、設備投資の際は少額減価償却資産の特例が使えるかどうかも含め、事前に税理士へご相談いただくことをおすすめします。 特に複数の減価償却資産を同時に導入する年は、特例の年間上限額(300万円)を超えないよう事前に計画しておくと安心です。導入時期を分散させることで、複数年にわたって特例を無理なく活用できる場合もあります。
菅原和望税理士事務所では、飲食店の記帳代行や経費区分のご相談を承っております。
確定申告の基本については「飲食店の確定申告ガイド」、資金繰り対策については「飲食店の資金繰り対策」、会計ソフトの選び方については「飲食店におすすめの会計ソフト」もあわせてご覧ください。
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減価償却の詳細は国税庁 No.2100 減価償却のあらまし、耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(e-Gov法令検索)をご確認ください。
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