皆様、こんにちは。税理士の菅原和望です。
やむを得ず飲食店を廃業・閉店する場合にも、税務署へのさまざまな届出が必要です。廃業を決めた後は、店舗の原状回復や取引先への連絡など対応すべきことが多く、税務手続きが後回しになってしまうケースも見られます。特にスタッフへの説明や仕入先への支払い調整など、感情的にも負担の大きい対応が重なる時期でもあるため、税務手続きだけでも早めにリスト化しておくと気持ちの整理がつきやすくなります。今回は、飲食店の廃業・閉店にあたって押さえておきたい税務上の手続きについて解説します。
飲食店の税務を全体から確認したい方へ
開業手続き・確定申告・経費・軽減税率と消費税(インボイス)・人件費と社会保険・税務調査・法人化・閉店までを1ページにまとめた飲食店の税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
廃業時に提出する主な届出書
- 個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)…廃業した年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までに提出します。提出先は納税地を管轄する税務署で、控えを手元に残しておくと後日の手続きで提示を求められた際に便利です(令和7年1月から、控えに税務署の収受日付印は押されなくなりました)
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書(青色申告の承認を受けていた場合。ほかの事業や不動産の貸付けなどで青色申告を続ける場合を除きます)…取りやめようとする年分の確定申告期限(原則として、取りやめる年の翌年3月15日)までに提出します。事業(不動産の貸付けなどを含みます)をすべてやめると、青色申告の承認はやめた年の翌年分から効力を失いますが、国税庁の案内では廃業時に提出する届出書に挙げられているため、廃業届とあわせて提出しておきましょう。届出書に記入した年分から青色申告ができなくなるため、廃業した年分も青色申告で申告する場合は、取りやめる年分を廃業した年の翌年分とします
- 給与支払事務所等の廃止届出書(従業員がいた場合)…廃止の事実があった日から1か月以内に提出します。年の途中で廃業する場合、従業員の源泉徴収票の発行時期についても早めに確認しておく必要があります
- 消費税の事業廃止届出書(課税事業者だった場合)…事業を廃止した場合に速やかに提出します。インボイス発行事業者だった場合も、事業廃止届出書を提出すれば、事業を廃止した日の翌日に登録の効力がなくなるため、登録の取消しを求める届出書を別に提出する必要はありません
廃業届の提出期限
個人事業の廃業届は、廃業した年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までに提出する必要があります。提出方法は税務署窓口への持参のほか、郵送やe-Taxによるオンライン提出も可能です。あわせて、都道府県税事務所への事業開始等申告書(廃止用)の提出が必要な場合もあります。提出先や様式は都道府県によって異なるため、管轄の都道府県税事務所のホームページなどで事前に確認しておきましょう。青色申告の取りやめ届出書も、あわせて提出を忘れないようにしましょう。従業員を雇用していた場合は、給与支払事務所等の廃止届出書を、廃止の事実があった日から1か月以内に提出する必要があります。従業員の退職に伴う離職票の発行手続きも並行して進める必要があるため、廃業日が近づいたら早めにハローワークへの相談も検討しましょう。届出書の種類が多いため、廃業日を決めた段階でチェックリストを作成しておくと安心です。提出先の税務署・都道府県税事務所・年金事務所などが異なる場合もあるため、宛先ごとに整理しておくと漏れを防ぎやすくなります。提出済みの控えは廃業後もしばらく保管しておくと、後日の確認や問い合わせにも対応しやすくなります。
在庫・設備・消費税の取扱い
廃業時に残った食材や在庫は、廃棄や自家消費の扱いに応じて税務上の処理が必要です。特に、事業用の在庫を自分で消費したり、家族や知人に無償で譲ったりした場合は、通常の販売価格に相当する金額を売上として計上する必要があります。処分方法によって税務上の扱いが変わるため、廃棄・自家消費・売却のいずれについても記録を残しておくことをおすすめします(いわゆる自家消費・贈与の取扱い)。厨房設備などを売却する場合は、売却額から未償却残高(取得価額から減価償却費を差し引いた金額)と売却にかかった費用を差し引いた金額が、原則として譲渡所得の対象になります(年間50万円までの特別控除があります)。売却先が見つからず廃棄処分する場合は、未償却残高を除却損として必要経費に計上できます。消費税の課税事業者であった場合は、廃業した年の1月1日から廃業日までの期間について消費税の申告も必要になる点も忘れないようにしましょう。簡易課税を選択していた場合でも、期間中の売上に応じた消費税の計算・納付は通常どおり必要です。廃業年は営業期間が短くなる分、消費税額の計算を誤りやすいため、通常の年以上に慎重な確認が必要です。 また、店舗の賃貸借契約における敷金・保証金の返還額も、原状回復費用と相殺されるケースが多いため、事前に契約内容を確認しておきましょう。原状回復の範囲や工事業者の指定の有無について契約書に明記されていることも多いため、廃業を決めた段階で改めて条項を読み返しておくと想定外の費用を防げます。契約書が手元に見当たらない場合は、早めに大家さんや管理会社に再発行を依頼しておくと安心です。
よくあるご質問
Q. 廃業届を出さないとどうなりますか?
A. 罰則はありませんが、税務署からの通知や確定申告のお知らせが届き続けるなど、事務的な不都合が生じることがあります。将来的に新たな事業を始める際にも、過去の届出状況が確認されることがあるため、きちんと手続きを済ませておくことをおすすめします。将来的に別の形で再び開業を考えている場合も、廃業時の手続きを正しく済ませておくことがスムーズな再スタートにつながります。青色申告の承認を受けていた場合は、青色申告の取りやめ届出書も、廃業届とあわせて提出しておきましょう(近いうちに再び開業する予定がある場合は、取りやめ届出書を提出した日以後1年以内の承認申請が却下されることがあるため、提出するかどうかを事前に確認しましょう)。なお、廃業後も帳簿書類は原則7年間保存する義務がある点は変わりません。
Q. 廃業した年の確定申告はどうすればいいですか?
A. 廃業した年についても、1月1日から廃業日までの所得について通常どおり確定申告が必要です。廃業日以降に受け取った売掛金の入金なども、原則として廃業年の所得として計上する必要があります。廃業した年に発生した在庫の処分損や設備の除却損なども、その年の必要経費として計上できる場合があるため、忘れずに申告を行いましょう。廃業年は所得が例年と大きく異なることも多く、予定納税額の計算にも影響する場合があるため、翌年の納税予定もあわせて確認しておくと安心です。廃業後は収入の見通しも変わるため、翌年の予定納税額の減額申請ができないか、早めに税理士へ相談しておくとよいでしょう。
まとめ 税理士からのアドバイス
廃業・閉店の手続きは種類が多く、税務以外にも従業員対応や取引先への連絡など、やるべきことが多岐にわたります。特に在庫や設備の処分方法によって税負担が変わることもあるため、廃業を決めた時点で早めに専門家へご相談いただくと、スムーズに手続きを進められます。廃業までのスケジュールを一緒に整理することで、税務手続きの漏れや期限超過を防ぎやすくなります。 従業員がいる場合は、解雇や退職に伴う社会保険・雇用保険の手続きも並行して進める必要があります。解雇予告や退職金の有無についても、労働基準法に沿った対応が求められるため、社会保険労務士とも連携しながら進めると安心です。従業員への説明はできるだけ早い段階で行い、今後の生活設計を考える時間を確保してもらうことも大切な配慮のひとつです。
確定申告の基本については「飲食店の確定申告ガイド」、資金繰り対策については「飲食店の資金繰り対策」もあわせてご覧ください。
飲食店の税務・会計に関する関連記事
飲食店の税務を全体像から確認したい方は、まず飲食店の税務 完全ガイドをご覧ください。個別のテーマは以下の記事で解説しています。
- 横浜市青葉区・都筑区の飲食店が顧問税理士をつけるメリットと選び方を解説
- 飲食店とインボイス制度|仕入税額控除と対応のポイントを解説
- 飲食店におすすめの会計ソフト|POSレジ連携と記帳のポイントを解説
- 飲食店の人件費と社会保険|アルバイト・パート雇用の注意点を解説
- 飲食店の消費税申告|簡易課税と原則課税どちらが得かを解説
- 飲食店の確定申告ガイド|個人事業主が知っておきたい税務手続きを税理士が解説
- 飲食店の税務調査で気をつけたいポイント|現金商売の注意点を解説
- 飲食店の経費と設備投資|食材費・水道光熱費・厨房機器の減価償却を解説
- 飲食店の資金繰り対策|赤字を防ぐポイントと資金調達方法を解説
- 飲食店の軽減税率|店内飲食とテイクアウトの税率区分を解説
- 飲食店は法人化すべき?個人事業主との違いを税理士が比較
- 飲食店は白色申告と青色申告どちらが得か|65万円控除のメリットを解説
- 飲食店開業時の税務手続きまとめ|開業届・青色申告承認申請書を解説
廃業時の手続きについては、国税庁の公式サイトでもご確認いただけます。
免責事項
本記事は、掲載時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上の判断や助言を行うものではありません。制度は改正されることがありますので、実際の手続きの際は最新の情報をご確認ください。記事の内容に関するご質問や、記事の内容についてのスポットでのご相談はお受けしておりません。顧問契約をご検討の方には、初回無料の面談を行っています。本記事の内容を利用したことにより生じた損害について、当事務所は一切の責任を負いません。
