税理士の菅原和望です。今回は賃貸経営とインボイス制度の関係を、住宅家賃と事業用テナントの違いから整理していきます。
住宅の家賃は消費税が非課税ですが、店舗やオフィスなど事業用テナントを賃貸している大家さんは、インボイス制度への対応が必要になる場合があります。同じ物件でも住宅部分と店舗部分が混在している場合は、取引ごとに課税・非課税の判定が異なるため、賃貸借契約の内容を改めて確認しておくことが大切です。
大家さんの税務を全体から確認したい方へ
当事務所では、不動産所得・事業的規模・減価償却と修繕費・消費税・法人化・売却までを1ページにまとめた大家さん・不動産オーナーの税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 住宅(居住用)の家賃だけを受け取っている大家さんは、インボイス登録は不要です。住宅の家賃・共益費・礼金・更新料は消費税が非課税で、入居者(個人)からインボイスを求められることもありません。
- 店舗・事務所・倉庫のテナント、舗装や区画のある月極駐車場、トランクルームの賃料は消費税の課税対象です。借主が課税事業者(法人・課税売上1,000万円超の個人)であれば、インボイスを求められる可能性があります。登録するかは「借主が課税事業者か」「賃料への影響」「登録後の消費税負担」の3点で判断します。
- 登録すると、課税売上1,000万円以下でも消費税の申告が必要になります。納税額は2割特例(令和8年分まで)→3割特例(個人は令和9年分・令和10年分)で売上にかかる消費税の2割→3割、令和11年分以後は簡易課税(不動産業=第6種・みなし仕入率40%)か原則課税で計算します。登録しない場合の借主側の控除は、令和8年10月から70%(令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月に終了)と段階的に下がります。
大家さんとインボイス制度の関係|住宅家賃は非課税、店舗・駐車場は課税
住宅家賃は非課税取引
居住用として貸し付ける住宅の家賃は消費税が非課税とされており、インボイスの発行義務は生じません。ただし、契約書上「住宅として貸し付けている」ことが明記されていない場合は非課税の適用が認められないことがあるため、契約内容の確認も重要なポイントです。古い契約書では住宅用途である旨の記載が曖昧なこともあるため、更新のタイミングで文言を見直しておくと安心です。
事業用テナントは課税取引
店舗・オフィス・駐車場・トランクルームなど事業用途の賃貸は消費税の課税対象となり、テナント側が仕入税額控除を受けるにはインボイスが必要です。駐車場については、青空駐車場のように設備を伴わない場合は非課税となるケースもあるため、施設の内容によって取扱いが変わる点にも注意が必要です。フェンスや舗装を設けた駐車場は課税取引となる可能性が高く、設備の有無を個別に確認する必要があります。
物件の種類別|消費税とインボイスの要否 判断表
| 貸しているもの | 消費税 | インボイス登録の必要性 |
|---|---|---|
| 住宅(アパート・マンション・戸建て)の家賃・共益費・礼金・更新料 | 非課税 | 不要。借主が個人でも法人(社宅)でも、居住用なら非課税 |
| 住宅に付随する駐車場(1戸につき1台分以上が確保され、車の有無にかかわらず割り当てられ、家賃に含めて受け取っている) | 非課税(住宅の貸付けに含まれる) | 不要 |
| 家賃と別料金の駐車場、月極駐車場(舗装・区画・フェンスなどの設備あり) | 課税 | 借主が課税事業者(法人・事業用車両)なら求められることがある。個人の自家用車なら実務上ほぼ不要 |
| 青空駐車場(更地のまま、区画や舗装などの整備なし) | 非課税(土地の貸付け) | 不要。ただし整備をすると課税に変わる |
| 店舗・事務所・倉庫・工場のテナント | 課税 | 借主が課税事業者なら求められる可能性が高い。借主が免税事業者(小規模な個人事業主)なら不要 |
| トランクルーム・貸しコンテナ、看板・アンテナの設置料 | 課税 | 借主が事業者なら求められることがある |
| 民泊・ウィークリーマンション(貸付期間1か月未満) | 課税 | 利用者は個人消費者が多く、求められることは少ない。ただし課税売上として1,000万円判定に含まれる |
| 敷金・保証金(返還するもの) | 不課税(預り金) | 対象外。返還しない部分(償却分)は家賃と同じ区分 |
| 土地の売却 | 非課税 | 対象外。建物の売却は課税(買主が事業者なら求められることがある) |
消費税の課税事業者になるかどうかの「1,000万円」の判定には、非課税の住宅家賃は含めません。たとえば住宅家賃1,500万円・店舗家賃300万円の大家さんは、課税売上300万円で判定するため、登録しなければ免税事業者のままです。
免税事業者の大家さんが登録するかどうかの判断手順
- 課税対象の家賃収入があるか:上の表で「課税」に当たる収入がなければ、登録は不要です。住宅専業の大家さんはここで終わりです。
- 借主が課税事業者か:法人テナント、チェーン店、課税売上1,000万円超の個人事業主は仕入税額控除を必要とします。借主が免税事業者や簡易課税の事業者であれば、あなたのインボイスは借主の納税額に影響しないため、求められることは通常ありません。
- 登録しない場合の借主の負担を把握する:借主は、免税事業者に支払った賃料について、令和8年9月30日までは消費税相当額の80%、令和8年10月1日〜令和10年9月30日は70%、令和10年10月1日〜令和12年9月30日は50%、令和12年10月1日〜令和13年9月30日は30%を控除でき、令和13年10月以後は控除できなくなります(令和8年度税制改正で期限が2年延長され、割合が見直されました)。控除できない分を理由に賃料の減額(消費税相当分の一部)を求められる可能性があります。
- 登録した場合の消費税負担を試算する:登録すると課税事業者になり、課税売上が1,000万円以下でも消費税の申告・納付が必要です。免税事業者から登録した個人の大家さんは、2割特例(売上にかかる消費税の2割を納税)が令和8年分まで、令和8年度税制改正で新設された3割特例(売上にかかる消費税の3割を納税。個人事業者のみ・基準期間の課税売上高1,000万円以下・申告書に付記するだけで適用)が令和9年分・令和10年分に使えます。令和11年分以後は簡易課税(第6種・みなし仕入率40%=売上にかかる消費税の60%を納税)か原則課税になります。大規模修繕や建物の購入を予定している年は原則課税の方が有利になることがあり、簡易課税は2年間継続が原則です。
- 賃料への転嫁と賃料減額のリスクを比べて決める:「登録して消費税を納める(賃料は税込で据え置き)」と「登録せず、賃料の減額交渉に応じる余地を残す」のどちらが手元に残るかを、テナントの契約期間と更新時期を踏まえて比較します。登録はいつでも申請でき、登録日から効力が生じます。
大家さんがインボイス発行事業者になるかどうかの判断
取引先からの要望を確認
事業用テナントの入居者が仕入税額控除を必要とする課税事業者である場合、インボイス発行事業者への登録を求められることがあります。特に法人テナントやチェーン展開している店舗など、規模の大きい事業者ほど仕入税額控除への意識が高く、インボイス登録を契約継続の条件とされることもあります。契約更新前にテナント側の意向を確認しておくことで、退去や賃料交渉のリスクを事前に把握できます。
免税事業者のままのリスク
登録しない場合、取引先が仕入税額控除を受けられず、賃料交渉や退去のリスクにつながる可能性があります。経過措置により当面は一定割合の控除が認められるものの、将来的に控除割合が縮小していくことを踏まえ、早めに対応方針を決めておくことが望ましいでしょう。経過措置の期間中に登録の要否を見極め、必要であれば計画的に準備を進めることをおすすめします。
登録する場合の実務対応
登録申請の手続き
インボイス発行事業者になるには税務署へ登録申請書を提出し、登録番号の通知を受ける必要があります。登録が完了すると、以降発行する請求書や領収書に登録番号を記載する必要があるため、テナントごとの請求書フォーマットもあわせて見直しておくとよいでしょう。
消費税申告への影響
登録により課税事業者となるため、消費税の申告・納付義務が発生し、簡易課税制度の選択も検討事項となります。不動産賃貸業は簡易課税制度において第六種事業に区分されることが一般的で、みなし仕入率は他の業種と比べて低めに設定されている点も踏まえて、原則課税との比較検討が必要です。簡易課税を選択する場合は2年間継続適用が原則となるため、将来の設備投資や大規模修繕の予定も踏まえたうえで選択することが望ましいでしょう。
青葉区・都筑区の大家さんとインボイス制度
店舗・事務所を併せ持つ物件の多さ
青葉区・都筑区では、一階に店舗や事務所が入り上階が住居という物件も少なくありません。住宅部分と事業用部分で消費税の取扱いが変わるため、契約内容を一覧に整理しておくと、インボイス発行事業者になるかどうかの判断がしやすくなります。
テナントから要望を受ける前に確認したいこと
新規物件の購入、大規模修繕、法人化の検討など、資金や税負担への影響が大きい意思決定の前に相談いただくことで、選択肢を踏まえた判断がしやすくなります。インボイス登録の要否についても、既存テナントの契約更新前に一度整理しておくことをおすすめします。
インボイス対応でよくいただくご相談
契約書と請求書の整理の進め方
賃貸借契約書と各区画の用途を一覧にしておけば、住宅と事業用の区分を毎年ゼロから確認する必要がなくなります。テナントとのやり取りで請求書を発行している場合は、その控えも同じ場所にまとめておくと確認が早くなります。
管理会社・テナントとの調整の進め方
テナントの意向は管理会社を通じて確認し、消費税の取扱いや登録の判断は税理士に相談するという流れが実務では進めやすくなります。登録するかどうかは相手との取引関係にも関わるため、双方の情報を突き合わせて決めることが大切です。
まとめ
住宅家賃のみを扱う大家さんはインボイス制度の影響は限定的ですが、事業用テナントがある場合は取引先の状況を踏まえた対応が必要です。
消費税申告の詳細は「大家さんの消費税申告、住宅家賃は非課税?店舗・駐車場との違いを解説」もあわせてご覧ください。
確定申告・税務相談の業務内容はこちら、料金プランはこちらをご覧ください。顧問契約・確定申告のご依頼・ご予約はこちらの予約方法からお気軽にどうぞ。
よくある質問
Q. 住宅と店舗が混在する物件はどう扱えばよいですか?
A. 住宅部分は非課税、店舗部分は課税取引として区分して消費税の計算を行う必要があります。面積按分など合理的な基準で区分する必要があるため、契約書の作成段階で明確にしておくと安心です。
Q. 駐車場だけを貸している場合も対象になりますか?
A. 青空駐車場か構築物のある駐車場かなどにより取扱いが異なるため、個別の確認が必要です。契約書に駐車場の設備状況を明記しておくと、後の判断もスムーズになります。
Q. インボイス登録は義務ですか?
A. 義務ではありませんが、取引先の状況によっては登録を求められるケースがあります。登録の要否に迷う場合は、テナント構成を踏まえてご相談ください。
Q. 登録するとずっと課税事業者のままですか?
A. 一定の届出により免税事業者に戻ることも可能ですが、要件があるため事前確認が必要です。
Q. 登録すべきかどうかの判断から相談できますか?
A. 登録の判断からご相談いただけます。賃貸借契約の内容と入居者の区分を確認しながら、登録した場合と登録しない場合の影響を整理してお示しします。
Q. 登録申請の手続きも代行してもらえますか?
A. 申請書類の作成から提出までお任せいただけます。登録後の消費税申告や請求書の記載方法についても、実務に沿ってご案内します。
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大家さんの税務を全体像から確認したい方は、まず大家さん・不動産オーナーの税務 完全ガイドをご覧ください。個別のテーマは以下の記事で解説しています。
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インボイス制度の詳細は国税庁の情報もご確認ください:国税庁公式サイト
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