税理士の菅原和望です。私自身も不動産賃貸業を営んでおり、毎月の家賃入金の突合や物件別の損益管理は自分の帳簿で行っています。この記事では、大家さん・アパート経営の規模別に「会計ソフトと確定申告ソフトのどれを使えばよいか」、管理会社の送金明細や賃貸管理システムとどう連携させるか、物件別に収支を見るための設定までを整理します。
大家さんの税務を全体から確認したい方へ
当事務所では、不動産所得・事業的規模・減価償却と修繕費・消費税・法人化・売却までを1ページにまとめた大家さん・不動産オーナーの税務 完全ガイドも公開しています。この記事はそのうちの1テーマを詳しく解説したものです。
この記事の結論(先に3行で)
- 区分マンション1〜3室のサラリーマン大家さんは、青色申告でも控除は10万円なので、国税庁の確定申告書等作成コーナーか個人向けの確定申告ソフトで十分です。
- 5棟10室以上(事業的規模)なら、複式簿記で65万円(令和9年分以後は75万円)控除を取るためにクラウド会計ソフトが必須。マネーフォワード クラウド・freee・弥生のいずれも不動産所得用の青色申告決算書を作れます。
- ソフト選びより効くのは「管理会社の送金明細を総額で取り込む」「物件ごとに部門を分ける」「建物と設備を分けて固定資産台帳に登録する」の3つの設定です。
規模別:大家さんに必要なのは会計ソフトか、確定申告ソフトか
| 規模 | 青色申告特別控除 | 向いているツール | 理由 |
|---|---|---|---|
| 区分マンション1〜3室、給与所得が本業 | 最大10万円(簡易簿記で可) | 国税庁 確定申告書等作成コーナー、または個人向け確定申告ソフト | 取引が月数件なので、収支内訳書・青色申告決算書(不動産所得用)を直接作れる作成コーナーで足りる。源泉徴収票との合算も画面の案内どおりで済む |
| 4室〜9室、戸建て2〜4棟 | 最大10万円 | クラウド会計ソフト(個人事業主プラン) | 控除額は変わらないが、物件別の損益、修繕費と資本的支出の区分、固定資産台帳の管理をソフトに任せると申告ミスが減る |
| 事業的規模(おおむね5棟10室以上) | 最大65万円(e-Tax)。令和9年分以後は優良な電子帳簿で75万円 | クラウド会計ソフト(複式簿記・e-Tax・電子帳簿保存に対応) | 65万円控除には複式簿記と貸借対照表が必須。青色事業専従者給与や共済の管理も必要になる |
| 資産管理法人を設立した | —(法人税の申告) | 法人向けクラウド会計ソフト+税理士 | 決算書・法人税申告書・消費税申告・役員報酬の源泉徴収まで必要。個人の確定申告ソフトでは対応できない |
事業的規模の判定(5棟10室)と青色申告の控除額の違いは「大家さんは白色申告と青色申告どちらが得か|65万円控除のメリット」で解説しています。
大家さん向けの会計ソフト・確定申告ソフト比較
| ソフト | 不動産所得への対応 | 特徴 |
|---|---|---|
| マネーフォワード クラウド確定申告/クラウド会計 | 青色申告決算書(不動産所得用)・収支内訳書に対応。部門機能で物件別の損益を集計できる | 銀行・カード・電子マネーの連携先が多く、管理会社からの入金の自動仕訳ルールが作りやすい。法人化しても同じシリーズで移行できる。当事務所が導入から運用まで支援しているのはこのソフトです |
| freee会計 | 不動産所得に対応。タグで物件別に集計 | 簿記の知識がなくても質問に答える形式で入力できる。固定資産台帳も内蔵 |
| やよいの青色申告 オンライン | 不動産所得に対応 | 個人向けは料金が抑えめ。仕訳形式で入力したい方向け |
| 国税庁 確定申告書等作成コーナー | 青色申告決算書(不動産所得用)・収支内訳書を画面で作成 | 無料。ただし帳簿そのものは作れないので、65万円控除には別途複式簿記の帳簿が必要。1〜3室の方向け |
いずれも個人事業主向けプランは月1,000〜3,000円程度で、無料トライアルがあります。機能や料金は改定されるため、導入前に各社サイトで最新の内容を確認してください。
賃貸管理システム・管理会社の送金明細との連携
大家さんの記帳で最も手間がかかるのが「家賃の入金」と「契約家賃」の突合です。入金の形によって連携のやり方が変わります。
| 家賃の入り方 | 連携の方法 | 記帳の注意点 |
|---|---|---|
| 管理会社が集金し、管理料を差し引いて送金 | 毎月の送金明細(PDF・CSV)を会計ソフトに保存・取込し、銀行連携で入った差引後の金額と突合する | 入金額ではなく家賃の総額を収入に計上し、管理料・振込手数料・広告料を経費に分ける。差引後の金額だけを売上にすると収入も経費も過少になる |
| 自主管理で入居者から直接振込 | 家賃専用の口座を作り銀行連携。入居者名で自動仕訳ルールを設定 | 滞納があっても契約上の支払日に収入計上する。前払いの家賃は前受金 |
| 家賃保証会社が立替払い | 保証会社からの入金を契約家賃と突合 | 保証料は入居者負担が通常。大家負担分があれば支払手数料 |
| 賃貸管理ソフト(自主管理向けの家賃管理システム)を使っている | CSV出力→会計ソフトに取込が基本。API連携に対応する製品は限られるので、導入前に連携先を確認 | 賃貸管理ソフト側の入金消込と、会計ソフト側の仕訳の二重管理にならないよう、どちらを正とするか決める |
管理会社に委託している方は、送金明細を会計ソフトのファイルボックスに毎月保存するだけで、電子帳簿保存法の対応と突合資料の保管が同時に終わります。ファイル名に「年月+物件名」を入れておくと、確定申告や税務調査のときに探す手間がなくなります。
物件別に収支を見るための設定|部門・補助科目・固定資産台帳
- 部門(タグ)を物件ごとに作る:売上も経費も物件の部門を付けて記帳すると、物件別の損益表がいつでも出せます。売却や追加購入の判断、金融機関への説明資料になります。
- 共通経費の按分:税理士報酬や会計ソフト代など物件に紐づかない経費は「共通」部門にし、年末に戸数や収入比で按分するか、共通のまま残します。
- 固定資産台帳は建物と設備を分ける:建物(RC47年・木造22年など)と建物附属設備(電気・給排水15年など)を分けて登録すると、初期の減価償却費が大きくなります。購入時の契約書・固定資産税評価額の按分資料も一緒に保存します。
- 大家さん特有の勘定科目:賃貸料・礼金/更新料(収入)、敷金・保証金(負債=預り金)、修繕費、減価償却費、借入金利子(元本は経費ではない)、管理費、租税公課(固定資産税・都市計画税)、損害保険料、支払手数料(管理料・振込手数料)、広告宣伝費(AD)。初期設定でこの科目をそろえ、自動仕訳ルールに割り当てます。
- 修繕費と資本的支出:見積書の段階で「原状回復」「機能向上」を分けてもらい、工事ごとに判断を記録しておきます。判断基準は「大家さんの経費、修繕費と資本的支出の判断」をご覧ください。
横浜市青葉区・都筑区・緑区、川崎市宮前区・麻生区で賃貸物件をお持ちの大家さんには、マネーフォワード クラウドの初期設定から不動産所得の確定申告までを大家さん・不動産オーナー向けサポートでお受けしています。代表自身も不動産賃貸業を営んでいます。お近くの方はたまプラーザ・青葉区の案内ページもご覧ください。
導入の手順|年の途中からでも間に合う
- 家賃の入金口座と、固定資産税・ローン返済・修繕費の支払口座を会計ソフトに連携する(過去分の明細も取得できる範囲で取り込む)。
- 物件ごとの部門を作り、固定資産台帳に建物・設備・購入年月日・取得価額を登録する(前年の申告書の減価償却費の計算欄から転記できます)。
- 管理会社の送金明細を取り込み、家賃総額・管理料・振込手数料の自動仕訳ルールを設定する。
- 1月1日に遡って取引を登録し、期首残高(預金・借入金・敷金)を入れる。
- 月に一度、未仕訳の取引を処理し、物件別損益を確認する。確定申告時は青色申告決算書(不動産所得用)をソフトから出力してe-Taxで送信する。
年の途中で導入しても、銀行連携で1月からの明細を取り込めれば、その年の申告から使えます。青色申告承認申請書の期限(その年の3月15日まで。新たに貸付けを始めた場合は開始から2か月以内)だけは先に確認してください。
導入時の注意点
自動仕訳はそのまま信じない
自動取り込みされた取引の勘定科目は誤って登録されることがあります。特に初年度は、管理料と家賃総額の処理、敷金(預り金)と礼金(収入)の区別、ローン返済の元本と利子の分割を必ず確認してください。税理士がいる場合は月次または四半期ごとのチェックを依頼すると、申告直前の修正がなくなります。
自宅兼事務所の家事按分
自宅の一部を物件管理の事務に使っている場合、通信費や電気代の按分割合をルールとして設定し、毎年同じ基準を使います。
法人化を見据えたデータの持ち方
将来の法人化(資産管理会社)を考えている方は、個人と法人で同じシリーズのソフトを使うと、勘定科目や固定資産台帳をそのまま引き継げます。法人化の判断は「大家さんは法人化すべき?」で解説しています。
まとめ
大家さんの会計ソフト選びは、規模(控除額)と家賃の入り方で決まります。1〜3室なら作成コーナーで十分、事業的規模ならクラウド会計で複式簿記と65万円控除を取りにいく。どちらの場合も、送金明細の総額計上・物件別の部門・固定資産台帳の建物と設備の区分という3つの設定が、申告の正確さと物件判断の質を決めます。
確定申告・税務相談の業務内容はこちら、料金プランはこちらをご覧ください。顧問契約・確定申告のご依頼・ご予約はこちらの予約方法からお気軽にどうぞ。
よくある質問
Q. サラリーマン大家で区分マンション1室です。会計ソフトは必要ですか?
A. 必須ではありません。事業的規模ではないため青色申告でも控除は10万円で、簡易な帳簿で足ります。国税庁の確定申告書等作成コーナーで青色申告決算書(不動産所得用)と給与との合算を作成できます。物件が増えてきたらクラウド会計に移行してください。
Q. どの会計ソフトがおすすめですか?
A. 不動産所得に対応していれば、マネーフォワード クラウド・freee・弥生のどれでも申告はできます。当事務所が導入から運用まで支援しているのはマネーフォワード クラウドで、他のソフトをお使いの方はマネーフォワード クラウドへ乗り換えていただく形で対応しています(データ移行もお手伝いします)。
Q. エクセルでの管理でも問題ないですか?
A. 1〜3室で10万円控除なら問題ありません。65万円控除には複式簿記の帳簿(仕訳帳・総勘定元帳・貸借対照表)が必要で、エクセルで続けるのは現実的ではありません。
Q. 管理会社の送金明細はどう保存すればよいですか?
A. PDFで届く明細は会計ソフトのファイルボックスや電子帳簿保存の機能に毎月アップロードしてください。電子で受け取った書類は電子のまま保存する必要があります。紙で届く場合はスキャンして保存するか紙のまま7年保管します。
Q. 税理士に記帳代行を依頼することもできますか?
A. 可能です。管理会社の送金明細と口座の連携があれば、記帳代行の作業量は少なく、料金も抑えられます。代表自身が大家として同じ作業をしているので、物件別の数字の見方までお伝えできます。
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- 大家さん(不動産オーナー)の確定申告ガイド|経費・青色申告を税理士が解説
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