令和8年度税制改正では、賃上げ促進税制の見直し・延長が行われます。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、賃上げ促進税制の見直し・延長の内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。賃上げ促進税制は、法人税額から直接控除できる制度であるため、賃上げにともなう人件費の増加を一定程度税負担の軽減で相殺できる点が大きなメリットです。人件費の増加分をそのまま税負担で吸収するのではなく、一部を税額控除という形で取り戻せることが、この制度の大きな意義といえます。控除は税額そのものから差し引かれる「税額控除」であり、経費として計上する場合よりも直接的な効果が大きい点も特徴のひとつです。経費として計上する場合は税率を乗じた分だけ税負担が軽減されるのに対し、税額控除は控除額そのものが税額から直接減額されるため、同じ金額であればより大きな効果が期待できます。人手不足が続く中で賃上げは多くの企業にとって避けられない経営課題となっており、この制度をうまく活用できるかどうかが税負担に与える影響も小さくありません。特に人件費の増加は一度実施すると簡単に元に戻すことが難しいコストであるため、税制優遇の内容を踏まえたうえで、無理のない範囲で賃上げ計画を立てることが大切です。
賃上げ促進税制の見直し・延長の概要と制度の基本的な仕組み
給与等の支給額が増加した場合の特別税額控除制度、いわゆる賃上げ促進税制は、青色申告書を提出する法人が、前年度に比べて継続雇用者に対する給与等の支給額を一定割合以上増加させた場合に、その増加額の一部を法人税額から控除できる制度です。個人事業主についても、青色申告者であれば同様の趣旨の制度が設けられており、法人・個人事業主を問わず賃上げに取り組む事業者を支援する仕組みとなっています。個人事業主の場合は所得税額から控除される仕組みとなるため、法人税額からの控除とは対象となる税目が異なる点にも注意が必要です。控除率は継続雇用者給与等支給増加割合の水準に応じて段階的に高くなる仕組みで、教育訓練費を一定以上増加させた場合や、プラチナくるみん・プラチナえるぼしなどの認定を受けている場合には、さらに控除率が上乗せされます。増加割合の水準が高くなるほど控除率も段階的に上がっていく設計となっているため、賃上げの実施幅が大きいほど税制上のメリットも大きくなる仕組みといえます。今回の改正では、こうした基本的な仕組みを維持しつつ、継続雇用者給与等支給増加割合に応じた税額控除に加え、教育訓練費の増加や、プラチナくるみん・プラチナえるぼし認定の取得に応じた上乗せ措置などを含め、引き続き活用しやすい制度となるよう見直しが行われています。なお、給与等の支給額には基本給だけでなく、一定の手当や賞与も含まれる場合があるため、増加額を計算する際はどの範囲の給与が対象となるかを正確に把握しておく必要があります。
賃上げ促進税制の見直し・延長が賃上げ計画の実務に与える影響
賃上げを検討している法人は、適用要件を確認したうえで計画的に対応することが重要です。控除の対象となる「継続雇用者」は、前事業年度と当事業年度の両方で給与等の支給を受けている一定の雇用者を指し、新入社員や退職者の給与は原則として増加割合の計算対象から外れる点にも注意が必要です。この継続雇用者の範囲を正しく把握できていないと、実際の賃上げ努力が控除額に正しく反映されないこともあるため、給与計算のデータから継続雇用者を正確に抽出する体制を整えておくことが重要です。中途採用を積極的に行っている企業では、継続雇用者の給与増加割合と全従業員の給与総額の増加率が大きく異なることもあるため、計算対象者の範囲を正確に把握しておくことが重要です。控除額には法人税額(中小企業者等は事業税額を含む場合がある)の一定割合を上限とする調整があるため、増加させた給与等の額すべてが控除されるわけではない点にも注意が必要です。あわせて少額減価償却資産の特例の見直しなど他の法人税関連の改正もご確認ください。資本金や従業員数などの区分判定は事業年度ごとに行われるため、事業拡大や組織再編などによって法人の規模が変わった場合は、翌年度以降に適用される区分が変わる可能性がある点にも留意が必要です。
賃上げ促進税制の見直し・延長に関するよくある質問
Q. 賃上げ促進税制はどの規模の法人でも使えますか?
A. 大企業向け・中堅企業向け・中小企業向けなど、規模に応じて要件や控除率が異なる制度設計となっています。ご自身の法人がどの区分に該当するかは、資本金や従業員数などの要件を確認する必要があります。一般的に中小企業向けの制度は適用要件が緩やかで控除率も高めに設定される傾向があり、賃上げの原資を確保しにくい中小企業への配慮がなされています。区分ごとに求められる賃上げ率の水準も異なるため、自社がどの区分に該当し、どの程度の賃上げを行えば控除を受けられるのか、事前に確認しておくことが大切です。なお、当期が赤字であるなど法人税額が少ない場合は、控除額の上限に達してしまい、賃上げの効果に見合った控除を受けられないケースもあるため、事前に控除見込み額をシミュレーションしておくことをお勧めします。特に中小企業向けの制度には、この繰越控除の仕組みが設けられているため、赤字の年であっても賃上げを実施した実績自体は無駄になりません。赤字企業であっても賃上げそのものへの取り組みを続けることで、業績が回復した年度に過去の実績を活かして控除を受けられる可能性があるため、賃上げ計画は単年度だけでなく複数年の視点で検討することをお勧めします。
Q. 上乗せ措置とは何ですか?
A. 教育訓練費を一定以上増加させた場合や、女性活躍推進・子育てとの両立支援に積極的な企業として認定(プラチナくるみん・プラチナえるぼしなど)を受けている場合に、税額控除率が上乗せされる措置です。複数の上乗せ要件を同時に満たす場合は、それぞれの上乗せ分を合算できる場合もあるため、自社が満たしている要件をすべて確認しておくとよいでしょう。適用には認定の取得や教育訓練費の記録など事前準備が必要です。教育訓練費の上乗せ措置を利用する場合は、研修の内容や参加者、支出金額を記録した資料を整理しておくことが、適用の際の根拠資料として重要になります。教育訓練費の増加による上乗せ措置は、通常の賃上げ促進税制の適用を受けたうえでさらに上乗せされる仕組みであるため、まずは基本の控除要件を満たしているかを確認することが前提となります。
まとめ
賃上げ促進税制の見直し・延長は、賃上げを検討する法人にとって重要な改正です。控除を受けられなかった年度分の控除額を翌年度以降に繰り越せる措置も設けられているため、単年度で控除額の上限に達してしまった場合でも、翌年度以降に活用できる可能性があります。制度を最大限活用するためには、複数年にわたる賃上げ計画と法人税額の見通しをあわせて検討することが望ましいでしょう。決算のタイミングで慌てて計算するのではなく、期中から継続雇用者の給与動向を把握しておくことで、より確実に控除を受けられる体制を整えることができます。特に複数年にわたる賃上げ計画を立てる際は、当該年度の法人税額の見通しも踏まえたうえで、控除を受けられる範囲を事前に把握しておくことが、制度を最大限活用するための鍵となります。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも随時公表されますので、あわせてご確認ください。
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