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賃上げ促進税制の見直し|令和8年度税制改正のポイントを税理士が解説

令和8年度税制改正では、賃上げ促進税制が見直されました。大企業向け(全法人向け)の措置は令和8年3月31日をもって廃止され、中堅企業向けの措置は要件を引き上げたうえで、適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止することとされています。中小企業向けの措置は、教育訓練費による上乗せが廃止されたほかは従来の内容が維持されています。適用期限の延長は行われていません。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、賃上げ促進税制の見直しの内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。賃上げ促進税制は、法人税額から直接控除できる制度であるため、賃上げにともなう人件費の増加を一定程度税負担の軽減で相殺できる点が大きなメリットです。人件費の増加分をそのまま税負担で吸収するのではなく、一部を税額控除という形で取り戻せることが、この制度の大きな意義といえます。控除は税額そのものから差し引かれる「税額控除」であり、経費として計上する場合よりも直接的な効果が大きい点も特徴のひとつです。経費として計上する場合は税率を乗じた分だけ税負担が軽減されるのに対し、税額控除は控除額そのものが税額から直接減額されるため、同じ金額であればより大きな効果が期待できます。人手不足が続く中で賃上げは多くの企業にとって避けられない経営課題となっており、この制度をうまく活用できるかどうかが税負担に与える影響も小さくありません。特に人件費の増加は一度実施すると簡単に元に戻すことが難しいコストであるため、税制優遇の内容を踏まえたうえで、無理のない範囲で賃上げ計画を立てることが大切です。

賃上げ促進税制の見直しの概要と制度の基本的な仕組み

給与等の支給額が増加した場合の特別税額控除制度、いわゆる賃上げ促進税制は、青色申告書を提出する法人が、前年度に比べて給与等の支給額を一定割合以上増加させた場合に、給与等の支給額の増加額の一部を法人税額から控除できる制度です。中小企業向けの措置は国内雇用者全体に対する給与等の支給額が前年度より1.5%以上増えたかどうかで、中堅企業向けの措置は継続雇用者に対する給与等の支給額が前年度より4%以上増えたかどうかで判定します。個人事業主についても、青色申告者であれば同様の趣旨の制度が設けられており、法人・個人事業主を問わず賃上げに取り組む事業者を支援する仕組みとなっています。個人事業主の場合は所得税額から控除される仕組みとなるため、法人税額からの控除とは対象となる税目が異なる点にも注意が必要です。控除率は給与等の支給額の増加割合に応じて段階的に高くなる仕組みです。令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、中小企業向けは増加割合1.5%以上で15%(2.5%以上で30%)、中堅企業向けは4%以上で10%(5%以上で15%、6%以上で25%)です。さらに、子育てとの両立支援や女性活躍支援に関する認定による上乗せ(5%)があります。中小企業向けでは、その事業年度中に「くるみん」または「えるぼし」(2段階目以上)の認定を受けた場合か、事業年度終了の時に「プラチナくるみん」または「プラチナえるぼし」の認定を受けている場合が対象です。「くるみん」と「えるぼし」は、過去の事業年度に受けた認定では対象になりません。教育訓練費を増加させた場合の上乗せ措置は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度(個人事業主は令和9年分)から廃止されました。今回の改正では、(1)大企業向け(全法人向け)の措置が令和8年3月31日をもって廃止され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用できなくなりました。(2)中堅企業向け(常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人)の措置は、令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度について、継続雇用者の給与等の増加割合の要件が3%以上から4%以上に引き上げられました。この措置は、適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止することとされています。(3)中小企業向けの措置は、教育訓練費による上乗せ(10%)が廃止されたことを除き、従来の制度が維持されています。なお、給与等の支給額には基本給だけでなく、手当や賞与も含まれます(退職金は原則として含まれません)。役員やその親族などに対する給与は計算から除かれるため、どの範囲の給与が対象となるかを正確に把握しておく必要があります。中小企業向けの措置を適用できるのは、法人は令和9年3月31日までに開始する事業年度、個人事業主は令和9年分までです。今回の改正は、法人は令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、個人事業主は令和9年分から適用されます。

賃上げ促進税制の見直しが賃上げ計画の実務に与える影響

賃上げを検討している法人は、適用要件を確認したうえで計画的に対応することが重要です。中堅企業向けの措置では、適用要件の判定に「継続雇用者」(前事業年度と当事業年度のすべての月分の給与等の支給を受けた一定の国内雇用者)の給与等を使うため、新入社員や退職者の給与は判定から外れます。一方、中小企業向けの措置では継続雇用者は使わず、パート・アルバイトを含む国内雇用者全体に対する給与等の支給額(役員やその親族などへの給与を除きます)の増加割合で判定します。控除額は、どちらの措置でも国内雇用者全体の給与等の支給額の増加額をもとに計算します。中途採用を積極的に行っている企業では、継続雇用者の給与増加割合と全従業員の給与総額の増加率が大きく異なることもあるため、計算対象者の範囲を正確に把握しておくことが重要です。控除額は、その事業年度の法人税額の20%が上限となるため、増加させた給与等の額すべてが控除されるわけではない点にも注意が必要です。あわせて少額減価償却資産の特例の見直しなど他の法人税関連の改正もご確認ください。資本金や従業員数などの区分判定は事業年度ごとに行われるため、事業拡大や組織再編などによって法人の規模が変わった場合は、翌年度以降に適用される区分が変わる可能性がある点にも留意が必要です。

賃上げ促進税制の見直しに関するよくある質問

Q. 賃上げ促進税制はどの規模の法人でも使えますか?
A. 令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、利用できるのは中堅企業向け(常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人。適用期限は令和9年3月31日までに開始する事業年度で、期限の到来をもって廃止することとされています)と中小企業向けの2つで、要件や控除率が異なります。大企業向け(全法人向け)の措置は令和8年3月31日をもって廃止されました。ご自身の法人がどの区分に該当するかは、資本金や従業員数などの要件を確認する必要があります。一般的に中小企業向けの制度は適用要件が緩やかで控除率も高めに設定される傾向があり、賃上げの原資を確保しにくい中小企業への配慮がなされています。区分ごとに求められる賃上げ率の水準も異なるため、自社がどの区分に該当し、どの程度の賃上げを行えば控除を受けられるのか、事前に確認しておくことが大切です。なお、当期が赤字であるなど法人税額が少ない場合は、控除額の上限に達してしまい、賃上げの効果に見合った控除を受けられないケースもあるため、事前に控除見込み額をシミュレーションしておくことをお勧めします。中小企業向けの制度には、控除しきれなかった金額を翌年度以降5年間繰り越せる仕組み(繰越税額控除)が設けられているため、赤字の年であっても賃上げを実施した実績自体は無駄になりません。ただし、繰り越した金額を控除できるのは、雇用者給与等支給額が前年度より増加している事業年度に限られ、控除しきれなかった年度以後の申告で明細書を添付しておく必要があります。赤字企業であっても賃上げそのものへの取り組みを続けることで、業績が回復した年度に過去の実績を活かして控除を受けられる可能性があるため、賃上げ計画は単年度だけでなく複数年の視点で検討することをお勧めします。

Q. 上乗せ措置とは何ですか?
A. 基本の控除率に加えて、一定の要件を満たすと控除率が上乗せされる措置です。令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、(1)賃上げ率が高い場合の上乗せ(中小企業向けは増加割合2.5%以上で15%を加算)と、(2)子育てとの両立支援・女性活躍支援の認定による上乗せ(5%を加算。中小企業向けは、その事業年度中に「くるみん」または「えるぼし」2段階目以上の認定を受けた場合か、事業年度終了の時に「プラチナくるみん」または「プラチナえるぼし」の認定を受けている場合)の2つがあり、両方を満たせば合算されます(中小企業向けは最大35%)。教育訓練費の増加による上乗せ措置は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度(個人事業主は令和9年分)から廃止されました。令和8年3月31日までに開始した事業年度(個人事業主は令和8年分まで)は、従来どおり教育訓練費による上乗せを適用できます。

まとめ

賃上げ促進税制の見直しは、賃上げを検討する法人にとって重要な改正です。中小企業向けの措置には、控除しきれなかった金額を翌年度以降5年間繰り越せる措置が設けられているため、単年度で控除額の上限に達してしまった場合でも、翌年度以降に活用できる可能性があります。制度を最大限活用するためには、複数年にわたる賃上げ計画と法人税額の見通しをあわせて検討することが望ましいでしょう。決算のタイミングで慌てて計算するのではなく、期中から給与等の支給額の動向を把握しておくことで、より確実に控除を受けられる体制を整えることができます。特に複数年にわたる賃上げ計画を立てる際は、当該年度の法人税額の見通しも踏まえたうえで、控除を受けられる範囲を事前に把握しておくことが、制度を最大限活用するための鍵となります。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも公表されていますので、あわせてご確認ください。

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