令和8年度税制改正では、インボイス制度の経過措置の見直しが行われます。インボイス制度が導入されてから数年が経過し、免税事業者との取引を続ける事業者の実務負担が想定より大きいという声を踏まえ、経過措置のスケジュールを見直す形での対応となりました。特に建設業や個人向けサービス業など、免税事業者である一人親方やフリーランスとの取引が多い業種では、この経過措置の動向が取引条件の見直しに直結しやすい傾向があります。一人親方やフリーランスの方にとっても、発注元の方針次第で仕事の受注状況が変わる可能性があるため、自身がインボイス発行事業者に登録するかどうかは、単なる税務上の判断だけでなく、事業継続にも関わる重要な選択となります。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、インボイス制度の経過措置見直しの内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。
免税事業者と取引のある事業者だけでなく、免税事業者自身もインボイス発行事業者に登録するかどうかの判断に関わる改正のため、双方の立場から内容を理解しておくことが大切です。特にこれから新たに事業を開始する方や、取引先を拡大する事業者にとっても、経過措置の内容を理解しておくことは今後の取引条件を検討するうえで役立ちます。
インボイス制度の経過措置見直しの概要と控除割合のスケジュール
インボイス発行事業者以外の免税事業者からの仕入れであっても、制度導入時から一定期間は仕入税額の一部を控除できる経過措置が設けられており、これまでは令和5年10月から3年間は80%、その後3年間は50%を控除できる仕組みとされていました。今回の改正では、免税事業者からの課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置について、段階的に縮減する方向性は維持しつつ、インボイス制度の影響を受ける小規模な国内事業者への配慮として、最終的な適用期限を2年延長したうえで引き下げペース・幅を見直すこととされました。具体的には、令和8年10月からは7割、令和10年10月からは5割、令和12年10月からは3割(令和13年9月末まで)という段階的なスケジュールに見直されています。従来のスケジュールでは令和11年9月末で経過措置が終了する予定でしたが、今回の改正で終了時期が令和13年9月末まで2年間延長された形になります。この2年間の延長は、免税事業者からインボイス発行事業者への転換を検討している事業者にとって、準備や判断のための時間的な余裕が増えることを意味します。あわせて、免税事業者ごとの年間仕入れに係る適用上限額についても、現行の10億円から1億円に引き下げられます。この上限額は、免税事業者からの仕入れが特に多い事業者について、経過措置の適用に歯止めをかける趣旨で設けられているものです。中小規模の事業者であれば年間の仕入れ額が1億円を超えることは比較的少ないと考えられますが、複数の免税事業者から継続的に大口の仕入れを行っている場合は、上限額への影響を確認しておく必要があります。なお、上限額の判定は事業者単位で行われるため、複数の事業を営んでいる場合であっても、事業全体の免税事業者からの仕入れ額を合算して判定する点に注意が必要です。
インボイス制度の経過措置見直しが取引実務に与える影響
取引先が免税事業者であるかどうかは、日頃の取引の中で意識する機会が少ないかもしれませんが、今回の見直しを機に主要な仕入先の課税事業者・免税事業者の状況を一度確認しておくことをおすすめします。取引先の登録状況を一覧化しておくことで、経過措置の適用可否や控除割合の変化を把握しやすくなり、消費税の計算業務の効率化にもつながります。インボイス制度への対応についてはインボイス制度に関する個人事業主向けの解説記事もあわせてご参照ください。確定申告における対応は当事務所の確定申告サービスでもサポートしております。特に建設業のように重層的な下請構造を持つ業種では、取引先が免税事業者かどうかの確認だけでなく、その先の二次請け・三次請けの状況まで把握しておくことが望ましい場合もあります。
インボイス制度の経過措置見直しに関するよくある質問
Q. 経過措置とは、具体的にどのような制度ですか?
A. インボイス(適格請求書)の発行ができない免税事業者からの仕入れについて、一定割合を仕入税額控除の対象として認める措置です。制度導入直後の急激な負担増を緩和する目的で設けられています。この経過措置がなければ、免税事業者からの仕入れは即座に全額が仕入税額控除の対象外となり、多くの事業者にとって急激な税負担増につながっていたと考えられます。段階的な経過措置が設けられていることで、事業者は取引先の見直しや価格交渉について、時間をかけて計画的に対応することができます。今回の見直しでは、控除割合が7割・5割・3割と段階的に下がっていく期間そのものを延長することで、免税事業者と継続的に取引がある事業者の負担増をより緩やかにする配慮がなされています。控除割合が下がるタイミングでは消費税の実質的な負担が増えるため、資金繰りへの影響も事前に見積もっておくと安心です。経過措置の適用を受けるためには、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存に加え、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要となるため、実務上はこれらの記帳・保存ルールを正しく運用することが重要です。
Q. 適用上限額の引き下げは、どのような事業者に影響しますか?
A. 年間の課税仕入れの規模が大きい事業者ほど影響を受けやすくなります。特に業種によっては、免税事業者からの仕入れが売上原価の大部分を占めるケースもあるため、そうした業種の事業者は上限額への該当可否をより慎重に確認する必要があります。免税事業者との取引が多い事業者は、インボイス発行事業者への転換要請や取引条件の見直しなど、早めの対応検討をおすすめします。取引先に転換を依頼する際は、価格交渉が絡む繊細な話題になりやすいため、経過措置の見直し内容を踏まえた説明ができるよう準備しておくとスムーズです。上限額を超えて免税事業者からの仕入れを行っている事業者は、超えた部分について経過措置の適用を受けられなくなるため、主要な仕入先の状況を一度整理しておくとよいでしょう。特に価格交渉においては、免税事業者側の事情にも配慮しながら、双方が納得できる条件を模索することが、長期的に良好な取引関係を維持するうえで重要です。
まとめ
インボイス制度の経過措置見直しは、小規模事業者の実務負担に配慮した改正です。経過措置の期間が延長されたことで、免税事業者のままでいるか、インボイス発行事業者として課税事業者になるかを判断する時間的な余裕が生まれた側面もあります。免税事業者のままでいる場合は消費税の申告・納付が不要である一方、取引先からの評価やインボイス対応を求められる可能性も踏まえて、長期的な事業の方向性とあわせて検討することが大切です。取引先との関係や今後の事業計画も踏まえて、焦らず検討することをお勧めします。制度の見直しによって判断の猶予が生まれたとはいえ、いずれは控除割合がさらに縮小していくため、長期的な視点での対応方針を固めておくことが望ましいでしょう。特に取引先との関係性を大きく変えることになる判断であるため、社内外への影響を丁寧に検討したうえで、必要に応じて税理士のサポートを受けながら進めることをお勧めします。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも随時公表されますので、あわせてご確認ください。
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