令和8年度税制改正では、インボイス制度の経過措置以外にも消費税関係の見直しが行われました。主な内容は、①海外からの少額の物品の通信販売(越境EC)への課税(令和10年4月1日から)、②非居住者に対する国内不動産の仲介の輸出免税からの除外(令和8年10月1日から)、③現金取引等における輸出免税の要件の見直し(令和8年10月1日から)、④暗号資産に係る課税関係の見直し(金融商品取引法等の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日から)です。デジタル化やグローバル化の進展にあわせて、これまでの消費税の課税ルールでは対応が難しくなってきた取引形態について、課税の公平性を確保するための改正が中心となっています。国内事業者と海外事業者の間で消費税の負担に差が生じると、公正な競争条件が損なわれるおそれがあるため、こうした見直しは国内事業者の保護という側面も持っています。特にデジタルサービスは国境を意識せずに提供・利用できることが多いため、税制上のルールが実態に追いつくまでには一定の調整期間が必要となる分野といえます。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、その他消費税関係の見直しの内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。
特にインターネットを介した取引や暗号資産取引を行う事業者にとっては、消費税の取扱いを見誤ると申告漏れにつながるリスクもあるため、最新の制度内容を把握しておくことが重要です。取引の相手が国内・海外のどちらの事業者であるか、消費者向けか事業者向けかによって取扱いが変わるため、契約書や利用規約を確認しながら整理することをお勧めします。近年はサブスクリプション型のオンラインサービスや海外プラットフォームを利用する事業者・個人が増えていることもあり、消費税の課税関係を正しく理解しておく重要性はますます高まっています。特に個人で海外のオンラインサービスを利用している場合であっても、事業用途での利用であれば消費税の取扱いに影響することがあるため、プライベート利用と事業利用を区別して管理しておくことが望ましいでしょう。
その他消費税関係の見直しの概要と対象となる取引
国境を越えた電子商取引(海外から通信販売で送られてくる1万円以下の少額の物品)に係る課税の見直し、暗号資産に係る課税関係の見直し、非居住者に対して行う国内不動産の仲介に係る輸出免税の見直し、現金取引等における輸出免税の要件の見直しなど、消費税の課税の適正化に関する改正が行われました。このうち国境を越えた電子商取引に係る見直しの対象は、動画配信やクラウドサービスなどの電気通信利用役務の提供ではなく、物品の越境EC(通信販売)です。これまで、課税価格の合計額が1万円以下の少額の輸入貨物は輸入時の消費税が免除されており、国内で消費税を納めて販売する国内事業者との間で競争条件の不均衡が生じていました。そこで、通信販売の方法により国外から国内に宛てて発送される1万円(税抜き)以下の資産の譲渡(特定少額資産の譲渡)を消費税の課税対象とし、販売する事業者に納税義務を課すこととされました。また、ECモールなどのデジタルプラットフォームを介して行われる、国外事業者が国内で行う資産の譲渡(商品の販売など)と特定少額資産の譲渡については、その対価の合計額が50億円(税込み)を超えるとして国税庁長官の指定を受けたプラットフォーム事業者(第二種プラットフォーム事業者)が販売したものとみなし、そのプラットフォーム事業者が申告・納税を行う制度が導入されます。いずれも令和10年4月1日以後に行われる資産の譲渡から適用されます。また、非居住者(海外に住む個人や外国法人など)に対して行う、国内に所在する不動産の売買・交換・貸借の代理や媒介(仲介)は、これまで輸出免税の対象とされていましたが、令和8年10月1日以後に行われるものから輸出免税の対象外となり、消費税が課税されます。ただし、令和8年3月31日までに締結された契約に基づくものは、改正前の取扱い(輸出免税)が適用されます。さらに、輸出取引の代金を現金で受け取る場合や、支払いが取引の相手方からのものであることが明らかでない方法で受け取る場合は、令和8年10月1日以後に行う取引から、輸出免税の適用を受けるための書類として、これまでの輸出許可書などに加えて、輸出先の国の輸入許可書に相当する書類の保存が必要になりました(銀行振込や荷為替手形による決済は該当しません)。暗号資産については、金融商品取引法等の改正に合わせて、譲渡を引き続き非課税としたうえで課税売上割合の計算方法を見直し、貸付けを非課税とする改正が行われました(内容は下の「よくある質問」をご覧ください)。なお、令和8年度税制改正では、所得税についても、一定の暗号資産(特定暗号資産)の譲渡による所得を他の所得と分離して課税する改正が行われています(金融商品取引法等の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後の譲渡から)。暗号資産取引を行っている方は、所得税の取扱いとあわせて確認しておくことをお勧めします。
その他消費税関係の見直しが越境取引・暗号資産取引の実務に与える影響
越境取引や暗号資産取引を行う事業者は、課税関係の変更点を確認しておく必要があります。令和8年度税制改正では、海外の事業者からサービスの提供を受ける場合のリバースチャージ方式は改正されていません。今回の改正で確認が必要になるのは、①海外から少額の物品を通信販売で販売している事業者やECプラットフォームを運営する事業者(令和10年4月1日以後)、②海外在住の方や外国法人から国内不動産の仲介を受託している不動産業者(令和8年10月1日以後)、③代金を現金等で受け取る輸出取引を行っている事業者(令和8年10月1日以後)、④暗号資産の譲渡や貸付けを行っている事業者です。なお、今回の改正とは別に、日頃利用している海外製のクラウドサービスやオンラインツールについては、契約形態によって消費税の取扱いが異なるため、主要な取引を一覧化して整理しておくと見落としを防ぎやすくなります。特に月額課金型のサービスを複数契約している場合は、契約時点と現在で提供事業者や契約形態が変わっていることもあるため、定期的に契約内容を見直すことをお勧めします。あわせてインボイス制度の経過措置見直しもご確認ください。特に複数の海外プラットフォームを利用している事業者は、プラットフォームごとに契約条件や課税関係が異なることもあるため、利用している全てのサービスについて個別に確認しておくことが望ましいでしょう。
その他消費税関係の見直しに関するよくある質問
Q. 海外事業者から役務提供を受ける場合の消費税はどうなりますか?
A. 国境を越えて行われるデジタルサービス(電気通信利用役務の提供)については、サービスの提供を受ける側の所在地を基準に国内取引かどうかを判定したうえで、事業者向けのサービスでは提供を受けた国内の事業者が申告・納税を行う仕組み(リバースチャージ方式)が設けられています。この判定基準は「消費地課税主義」と呼ばれる考え方に基づいており、サービスの提供地ではなく、実際にそのサービスを消費する側の所在地で課税するという国際的な原則に沿ったものです。リバースチャージ方式は、海外事業者が消費税を申告する代わりに、国内でサービスの提供を受けた事業者側が消費税の申告・納税を行う仕組みで、通常の取引とは納税義務者が逆転する点が特徴です。オンライン広告の配信サービスなど、事業者向け(いわゆるB to B取引)の電気通信利用役務の提供がこの方式の対象となりやすく、消費者向け(B to C取引)の場合は海外事業者自身が申告する方式が原則となります。取引の内容によって取扱いが異なるため、越境取引が多い事業者は個別の確認が必要です。リバースチャージ方式による申告が必要になるのは、一般課税で申告し、かつ課税売上割合が95%未満の課税期間です(課税売上割合が95%以上の課税期間や、簡易課税制度、2割特例・3割特例の適用を受ける課税期間は、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされます)。該当する事業者は、対象となる取引を見落とさないよう、海外事業者との契約内容を確認しておくことをお勧めします。なお、この仕組みは以前からあるもので、令和8年度税制改正による変更はありません。
Q. 暗号資産取引は消費税の課税対象になりますか?
A. 暗号資産の譲渡は、現在は支払手段に類するものとして消費税が非課税とされています。令和8年度税制改正では、金融商品取引法等の改正に合わせて、①暗号資産の譲渡を有価証券に類するものの譲渡として引き続き非課税とすること、②課税売上割合の計算では暗号資産の譲渡対価の5%相当額を算入すること、③暗号資産の貸付けを非課税とすること(現在は課税)が定められました。これらは、金融商品取引法等の改正法(令和8年7月23日公布)の施行日の属する年の翌年1月1日以後に行われる取引から適用されます。同法の施行日は公布の日から1年以内の政令で定める日とされており、令和8年10月時点ではまだ適用されていません。暗号資産を単なる決済手段として利用する場合と、投資対象として売買を繰り返す場合とでは、税務上着目すべきポイントが異なることもあるため、取引の実態に応じた整理が必要です。マイニング報酬や暗号資産を用いたサービス提供の対価、暗号資産交換業者に支払う手数料など、譲渡そのものではない取引については、非課税の対象にならないケースもあるため、それぞれの取引がどの区分に該当するかを一つずつ丁寧に確認していく必要があります。暗号資産の取引履歴は取引所からダウンロードできる場合が多いため、確定申告や消費税の検討にあたっては、日頃から取引履歴を整理しておくと後の作業がスムーズになります。
まとめ
その他消費税関係の見直しは、越境取引や暗号資産取引を行う事業者に関わる改正です。不動産関係の見直しで影響を受けるのは、海外在住の方や外国法人(非居住者)から国内不動産の売買・賃貸の仲介を受託している不動産業者と、その依頼者である非居住者です。令和8年10月1日以後に行われる仲介(令和8年3月31日までに締結された契約に基づくものを除きます)には、消費税がかかります。デジタル分野の取引は今後も制度の見直しが続くことが見込まれるため、日頃から取引の実態を整理し、変化に対応できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。特に事業でデジタル関連の取引を行っている方は、契約内容や取引形態の変化にあわせて消費税の取扱いも変わる可能性があるため、定期的な見直しを習慣づけておくことをお勧めします。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも公表されていますので、あわせてご確認ください。
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