令和8年度税制改正では、相続時精算課税制度そのものの改正は行われていません。相続・贈与の対策に関係する見直しとしては、貸付用不動産の評価方法の見直し(相続税等の財産評価の適正化)が示されており、令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する財産の評価から適用するとされています。なお、相続時精算課税は、令和6年1月以後の贈与から年110万円の基礎控除が設けられ、使いやすくなっています。基礎控除創設前は、少額の贈与であっても将来の相続財産に加算される仕組みであったため利用が限定的でしたが、基礎控除の創設によって使い勝手が大きく改善された経緯があります。基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからないだけでなく、相続財産への加算対象からも外れるため、コツコツと毎年贈与を続けることで将来の相続税負担を軽減できる点も、この制度が注目される理由のひとつです。長期的な視点で毎年少額の贈与を継続することで、無理のない範囲で着実に資産を移転できる点は、まとまった金額を一度に贈与する方法とは異なる魅力といえます。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、貸付用不動産の評価見直しの内容と、相続時精算課税制度の基本・実務上のポイントをわかりやすく解説します。相続時精算課税と暦年課税のどちらを選ぶべきかは、贈与する財産の種類や将来の相続財産の見通しによって異なるため、制度の仕組みを正確に理解しておくことが重要です。暦年課税は年110万円までの贈与が非課税となる一方、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算される取り扱いがあるため、贈与のタイミングによって有利・不利が変わってくる点も比較検討の材料になります。特に贈与を検討する際は、単年度の損得だけでなく、将来数年にわたる贈与計画全体を見据えて、どちらの制度がより有利かを判断することが望ましいといえます。
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貸付用不動産の評価見直しの概要と相続時精算課税制度の基本
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について選択できる制度で、令和6年以降は年110万円の基礎控除に加え、特別控除2,500万円までの贈与について贈与時の贈与税を抑えつつ、贈与者が亡くなった際に相続財産へ合算して相続税を計算する仕組みとなっています。令和8年度税制改正の大綱では、相続税等の財産評価の適正化として、貸付用不動産の評価方法の見直しが示されました。①相続や贈与の前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、路線価などによる評価ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価します(課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当額で評価することもできます)。②不動産特定共同事業契約などに基づく不動産小口化商品は、取得の時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額で評価します。いずれも令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する財産の評価から適用するとされています。国税庁は令和8年9月18日に通達の案を公表して意見を募集しており(締切は令和8年10月18日)、令和8年10月3日時点で通達は確定していません。この見直しは、相続だけでなく、暦年課税・相続時精算課税による贈与の評価にも関係します。相続時精算課税制度の適用要件や控除額に変更はありません。
相続時精算課税を選ぶときの実務上の注意点
相続時精算課税制度を選択するかどうかは、贈与する財産の種類や将来の値上がり見込み、贈与者・受贈者それぞれの年齢や資産状況などを総合的に踏まえて判断する必要があります。特に事業用資産や自社株式など将来の評価額が変動しやすい財産を保有している方は、制度選択の影響が大きくなりやすいため、慎重な検討が求められます。将来成長が見込まれる事業を営んでいる場合、株価が低いタイミングで相続時精算課税を利用して贈与しておくことで、将来の相続税負担を抑えられる可能性がある一方、業績が悪化した場合は贈与時点の高い評価額のまま相続財産に加算されるリスクもあるため、慎重な判断が必要です。相続対策全般については相続関連サービスのページで詳しくご案内しています。あわせて事業承継税制の見直し、教育資金の一括贈与の非課税措置の終了もご確認ください。特に複数の贈与者から贈与を受ける可能性がある方は、贈与者ごとに相続時精算課税と暦年課税を選択できるため、どの贈与者からの贈与にどちらの制度を適用するかを個別に検討することもできます。
相続時精算課税と財産評価に関するよくある質問
Q. 相続時精算課税制度とは、どのような制度ですか?
A. 生前に贈与を受けた財産について、贈与時に一定の非課税枠を利用しつつ、贈与者が亡くなった際に相続財産と合算して相続税を計算する制度です。将来の相続税を前払いするような性質を持つ制度であるため、相続財産の総額があらかじめ基礎控除の範囲内に収まる見込みの方にとっては、実質的に税負担を増やさずに早期の資産移転ができる点も魅力の一つです。具体的には、年110万円の基礎控除に加え、贈与者ごとに累計2,500万円までの特別控除を利用でき、これらの枠を超えた部分についてのみ20%の税率で贈与税を納める仕組みです。特別控除の2,500万円は複数年にわたって使い切ることができ、一度使い切った後の贈与については、基礎控除を超える部分に一律20%の贈与税がかかります。特別控除は、贈与税の期限内申告書を提出した場合に限り控除でき、前年以前に控除した額を差し引いた残額が限度になります。複数年にわたって利用する場合は、これまでにどれだけ特別控除を使ったかを正確に把握しておく必要があります。暦年課税との選択制となっており、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことはできません。なお、相続時精算課税を選択した後であっても、年110万円の基礎控除の範囲内の贈与は相続財産に加算されません。暦年課税では、相続開始前の加算対象期間内(令和6年1月1日以後の贈与については相続開始前7年以内)の贈与は年110万円以下でも相続財産に加算されるため、この点は暦年課税と異なります。
Q. 財産評価の適正化とは、どのような影響がありますか?
A. 今回の見直しの対象は、貸付用不動産(賃貸アパートや賃貸マンションなど)と不動産小口化商品です。相続や贈与の前5年以内に購入または新築した貸付用不動産は、通常の取引価額に相当する金額(取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当額でも可)で評価することとされ、令和9年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定です。ただし、通達に定める日(通達案では、通達の制定日)までに、その日の5年前から所有している土地に新築した家屋(その日に建築中のものを含みます)には、この見直しを適用しないとされています。国税庁の通達は令和8年10月時点で案の段階のため、賃貸不動産の購入や建築を伴う対策を検討中の方は、確定した内容を確認したうえで判断することをおすすめします。評価額が変わることで、これまで想定していた相続税額の見通しそのものが変わる可能性もあるため、定期的に試算をやり直しておくことが望ましいでしょう。数年前に一度試算しただけで安心してしまうケースも見られますが、評価ルールや資産の状況は変化するため、少なくとも数年に一度は最新の情報で見直すことをお勧めします。非上場株式(取引相場のない株式)の評価方法は、今回の通達案の対象ではありません。ただし、国税庁は令和8年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、評価方法の見直しを別途検討しています(令和8年9月までに6回開催)。自社株の贈与などを検討中の方は、今後の動向にもご注意ください。非上場株式の評価は、会社の業績や資産内容によって毎年評価額が変動するため、生前贈与のタイミングを検討する際は、直近の決算内容を踏まえた評価額の確認から始めるとよいでしょう。不動産についても、路線価や固定資産税評価額の見直しが定期的に行われるため、所有している不動産の評価額は一定期間ごとに確認しておくことをお勧めします。
まとめ
令和8年度税制改正では相続時精算課税制度そのものは改正されていませんが、貸付用不動産の評価方法の見直しは、賃貸不動産を使った相続・贈与の対策の前提に影響します。特に相続時精算課税を選択した後に贈与財産の価値が下落した場合でも、相続時には原則として贈与時点の評価額で相続財産に加算されるという特徴があるため、将来値上がりが期待される資産の贈与に適した制度ともいわれています。制度選択にあたっては、こうした特徴も踏まえて慎重に検討することが大切です。一度選択すると取り消せない制度であるため、目先の非課税枠だけでなく、複数年先までの資産状況や税負担の見通しをシミュレーションしたうえで判断することが、後悔のない選択につながります。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも公表されていますので、あわせてご確認ください。
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