令和8年度税制改正では、地方拠点強化税制(オフィス減税)とカーボンニュートラルに向けた投資促進税制が、内容を見直したうえで、それぞれ令和10年3月31日まで2年延長されました。地方拠点強化税制のうち雇用促進税制は、令和8年3月31日の期限の到来により廃止されています。いずれも法人の投資判断に直接関わる制度であり、延長の有無によって投資のタイミングを見直す必要が生じることもあります。適用期限が延長されたことで、これまで投資のタイミングを見送っていた法人にも、あらためて検討の機会が生まれたといえるでしょう。ただし、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は控除率などが引き下げられているため、改正後の内容で効果を試算し直す必要があります。制度の適用期限は数年単位で設定されることが一般的であるため、期限が近づくたびに延長の有無が話題になる制度のひとつでもあります。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、地方拠点強化税制等の見直し・延長の内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。地方展開や脱炭素対応は経営判断として重要度が高まっている分野であるため、税制優遇の内容を理解しておくことは投資判断の材料としても有用です。特にカーボンニュートラルへの対応は、取引先や投資家からの評価にも関わる要素となってきているため、税制優遇の活用は環境対応と経営効率の両面でメリットが期待できます。特に人材確保が難しい都市部から地方への機能移転を検討している企業にとっては、税制面のメリットも含めて総合的に判断する材料が増えることになります。特に近年は自然災害への備えとして本社機能の一部を地方に分散させる企業も増えており、事業継続計画(BCP)の観点からも地方拠点の強化を検討するケースが見られます。
地方拠点強化税制等の見直し・延長の概要と対象となる投資
地方拠点強化税制は、地域再生法に基づき都道府県知事の認定を受けた整備計画(地方活力向上地域等特定業務施設整備計画)に従って、東京23区から地方への本社機能等の移転や、地方における本社機能等の拡充を行う法人が、建物等を取得した場合に、特別償却または税額控除の適用を受けられる制度です。地方創生の観点から長年にわたり継続されてきた制度であり、地方における雇用創出や企業誘致の促進を目的としています。東京圏への一極集中を緩和し、地方における良質な雇用の場を確保するという政策目標のもとで運用が続けられてきた経緯があります。地方拠点強化税制には、本社機能等を移転する「移転型」と、既存の地方拠点を拡充する「拡充型」の2つの類型があり、いずれに該当するかによって適用される控除率や要件が異なります。一般的に、東京23区から地方へ本社機能を移転する「移転型」の方が、地方拠点をそのまま拡充する「拡充型」よりも税制上の優遇度合いが大きく設定される傾向があります。今回の改正では、地方拠点強化税制のうち、建物等を取得した場合の特別償却・税額控除(オフィス減税)が、見直しのうえ2年延長されました(令和10年3月31日までに整備計画の認定を受けることが必要)。新築・増築などの場合の率は、従来どおり、拡充型が特別償却15%または税額控除4%、移転型が特別償却25%または税額控除7%です。主な見直しは、(1)中古の建物等の取得を対象に追加(拡充型は特別償却10%または税額控除2%、移転型は15%または4%)、(2)新築・増築などで雇用を大きく増やす場合の上乗せ措置の創設(拡充型は特別償却20%または税額控除5%、移転型は特別償却25%または税額控除8%。雇用者の増加数が60人以上で建物等の取得価額が10億円以上であること、中小企業者は増加数が20人以上であることなどが要件)、(3)中小企業者以外の法人の取得価額要件の引上げ(3,500万円以上から4,500万円以上へ)で、令和8年4月1日以後に認定を受ける整備計画から適用されます。一方、雇用者の数が増加した場合の税額控除(雇用促進税制)は、令和8年3月31日の期限の到来により廃止されました(同日までに整備計画の認定を受けた場合は、経過措置により適用できます)。カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は、計画の認定期限が令和10年3月31日まで2年延長されましたが、令和8年4月1日以後に認定を受ける計画については、特別償却率が50%から30%に、税額控除率が中小企業者は最大14%から最大10%に、それ以外の法人は最大10%から最大8%に引き下げられ、求められる炭素生産性の向上率も引き上げられました。あわせて、企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設など、納税環境整備に関する改正も行われました。なお、企業グループ間の取引に係る書類保存の特例(関連者間取引に係る書類の整理保存の特例)は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行う取引から適用されています。青色申告法人が、持株割合50%以上などの関係にある関連者から、工業所有権等の譲渡・貸付けや一定の役務の提供を受けた場合で、契約書や見積書などに対価の額の算定に必要な事項の記載がないときは、その事項を記載した書類を申告書の提出期限までに取得または作成し、7年間保存しなければなりません。保存がない場合は青色申告の承認の取消事由になるため、対象となる法人は社内の書類保存体制を見直しておく必要があります。
地方拠点強化税制等の見直し・延長が投資計画の実務に与える影響
地方拠点の拡充や脱炭素投資を検討している法人は、適用要件を踏まえた投資計画の検討が重要です。特に地方拠点強化税制の適用には、建物等の着工・取得の前に「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」を作成して都道府県知事の認定を受けたうえで、対象となる建物等の取得や従業員数の増加といった複数の要件を満たす必要があるため、計画段階から自治体や専門家への相談を進めておくことをお勧めします。自治体によって独自の企業誘致策や補助制度を設けている場合もあるため、国の税制優遇とあわせて地域独自の支援策も確認しておくと、より有利な条件で投資を進められる可能性があります。整備計画の認定には、特定業務施設で常時雇用する従業員の数を5人以上(中小企業者は1人以上)増加させることなどが要件とされています。また、令和8年4月1日以後に認定を受けた整備計画については、認定を受けた日から建物等を事業の用に供した事業年度の終了の日までの間に、事業主都合による離職者がいないことについてハローワークの証明を受ける必要があります。認定手続きは自治体との調整も含めて時間がかかることが多いため、投資実行の半年から1年程度前には検討を始めておくと余裕を持って準備できます。特に建物の取得や新設を伴う投資は、着工から完成までの工期も踏まえてスケジュールを組む必要があるため、より早い段階からの準備が望ましいでしょう。あわせて研究開発税制の見直しもご確認ください。また、複数の拠点で同時に投資を計画している場合は、拠点ごとに適用される制度や要件が異なることもあるため、拠点単位で個別に要件を確認しておくことが望ましいでしょう。
地方拠点強化税制等の見直し・延長に関するよくある質問
Q. 地方拠点強化税制の対象となるのはどのような投資ですか?
A. 東京23区からの本社機能の移転や、地方における本社機能の拡充などを行う際の建物取得費用等について、特別償却や税額控除が受けられる制度です。適用を受けるには、建物等の着工前(建物等を購入する場合は売買契約などによる取得の前)に、地域再生法に基づく「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」について都道府県知事の認定を受ける必要があります。対象となるのは事務所、研究所、研修所など本社機能を担う施設で、単なる工場や倉庫の新設は原則として対象外とされています。総務・経理・人事などの管理部門や、情報処理部門、研究開発部門など、本社機能の一部を切り出して地方に移転するケースも対象となり得るため、拠点の一部機能のみを移転する場合でも要件を確認しておく価値があります。研究開発拠点やバックオフィス機能を地方に移転する動きが広がる中、こうした本社機能の移転・拡充を後押しする制度として位置づけられています。リモートワークの普及により本社機能の一部を地方に分散する企業が増えている中、こうした流れを後押しする税制としても注目されています。移転や拡充の規模が大きくなるほど、雇用者数の増加要件を満たすための人材確保も課題となるため、採用計画とあわせて投資計画を検討することが望ましいといえます。
Q. カーボンニュートラルに向けた投資促進税制とはどのような制度ですか?
A. 青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法に基づく「エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画」の認定を令和10年3月31日までに受け、認定の日から3年以内に、計画に記載された生産工程効率化等設備を取得して事業の用に供した場合に、特別償却(取得価額の30%)または税額控除の適用を受けられる制度です。税額控除率は、計画に記載した炭素生産性の向上率に応じて、中小企業者が10%または5%、それ以外の法人が8%または3%です(令和8年4月1日以後に認定を受ける計画の場合)。対象設備の要件や手続きの詳細は、投資計画の段階から確認しておくことをおすすめします。特別償却と税額控除はいずれか一方を選択して適用するため、その年の業績や将来の税負担の見通しに応じて有利な方を選ぶことができます。なお、大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)の投資計画について経済産業大臣の確認を受けた法人は、その投資計画の期間内の日を含む事業年度では、この税制の適用を受けることができません。生産性の向上と脱炭素化を同時に実現する設備が対象とされているため、老朽化した設備の更新を検討している法人にとっても活用の余地がある制度です。設備の取得にあたっては、補助金など他の支援制度と併用できる場合もあるため、税制優遇だけでなく利用可能な支援制度全体を確認しておくと、より効果的な投資計画を立てられます。
まとめ
地方拠点強化税制等の見直し・延長は、地方展開や脱炭素投資を検討する法人にとって重要な改正です。いずれの制度も申請や認定の手続きに一定の時間を要するため、投資の実行を決めてから慌てて準備を始めるのではなく、投資計画の初期段階から要件を確認し、必要な手続きのスケジュールを組み込んでおくことが望ましいでしょう。地域や業種によって活用できる制度の組み合わせも異なるため、投資計画の段階で幅広く情報収集しておくことをおすすめします。特に地方拠点の強化や脱炭素投資は、実行までの準備期間が長くなる傾向があるため、経営計画の早い段階から税理士や関係機関に相談しておくことをお勧めします。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも公表されていますので、あわせてご確認ください。
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