令和8年度税制改正では、研究開発税制の見直しと、特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)の創設が行われました。これらの制度は法人税額から直接控除できる税額控除型が中心であり、研究開発や設備投資に積極的な企業ほど税負担軽減の効果を実感しやすい設計となっています。特に研究開発税制は、基礎研究から製品化に向けた試験研究まで幅広い活動が対象となり得るため、自社の取り組みが対象になるかどうかを一度整理してみる価値があります。本記事では、横浜市青葉区の菅原和望税理士事務所が、研究開発税制の見直しの内容と実務上のポイントをわかりやすく解説します。複数の投資促進税制が並行して見直されているため、自社の事業内容にどの制度が当てはまるかを整理して理解することが大切です。日々の研究開発活動や設備投資が、実は税制優遇の対象になっているというケースも少なくないため、まずは自社の活動内容を棚卸ししてみることをお勧めします。研究開発部門を持たない企業でも、製品の製造や技術の改良・考案・発明に係る試験研究(自然科学に係る創造的で体系的な活動)を行っていれば対象になり得ます。ただし、事務処理手順の変更、販売方法の改良や販路の開拓、既存製品の品質管理や製品検査、生産調整のための製造ラインの配置転換などは、試験研究に含まれません。
研究開発税制の見直しの概要と関連する投資促進税制
研究開発税制は、法人が試験研究費を支出した場合に、その一定割合を法人税額から控除できる制度で、控除率は試験研究費の増減割合に応じて変動する仕組みになっています。今回の改正の主な内容は次のとおりです。(1)AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙の6分野について、認定を受けた計画に基づく試験研究費の40%(一定の研究拠点との共同・委託研究は50%)を、法人税額の10%を上限に控除できる「戦略技術領域型」が創設されました。産業技術力強化法の改正法(令和8年6月19日公布)の施行日から令和11年3月31日までに計画の認定を受けた法人が対象です。同法は公布から1年以内の政令で定める日に施行されるため、適用が始まるのはその日からです。(2)一般型は、令和9年4月1日以後に開始する事業年度から控除率の計算式が見直され、控除率の上限を14%とする特例などの時限措置は3年延長されました。(3)中小企業技術基盤強化税制(控除率12%)は、上乗せ措置が3年延長され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度に生じた控除しきれない金額を3年間繰り越せる制度が新設されました。繰り越した金額を控除できるのは、試験研究費の額が比較試験研究費の額(過去3年の平均額)を超える事業年度に限られます。(4)他の者に委託する試験研究のうち国外で行われるものに係る試験研究費は、医薬品・医療機器・再生医療等製品の有効性と安全性を確認するための一定の臨床試験に係るものを除き、控除の対象となる金額が段階的に縮小されます。令和8年4月1日以後に開始する事業年度は70%、令和9年4月1日以後に開始する事業年度は60%、令和10年4月1日以後に開始する事業年度は50%です。新製品・新技術の開発だけでなく、既存製品の改良や新たな生産方式の開発に関する費用も対象になり得るため、製造業に限らず幅広い業種で活用の余地がある制度です。ソフトウェア開発や、大量の情報を収集・分析して新たなサービスを設計するなど法令で定められた要件を満たす新サービスの開発も対象となり得るため、自社の業種にかかわらず一度制度の対象範囲を確認してみる価値があります。特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)は、青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法に基づく経済産業大臣の確認を令和11年3月31日までに受けた特定生産性向上設備等(機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウエア)を、確認を受けた日から5年以内に取得して国内の事業の用に供した場合に、即時償却または税額控除(取得価額の7%。建物、建物附属設備、構築物は4%。法人税額の20%が上限)のいずれかを選択できる制度として、新たに創設されました(令和8年7月31日施行)。対象となるのは、投資額の合計が35億円以上(中小企業者等は5億円以上)で、年平均の投資利益率が15%以上と見込まれる投資計画に基づく設備です。即時償却を選択すれば取得価額を早期に全額経費化できる一方、特別税額控除を選択すれば法人税額から直接控除を受けられるため、その年の業績や税負担の状況に応じてどちらが有利かを検討することになります。あわせて、オープンイノベーション促進税制は、取得価額要件の引上げや新たな類型の追加などの見直しを行ったうえで、適用期限が令和10年3月31日まで2年延長されました。戦略分野国内生産促進税制(産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得した場合の特別税額控除制度)は、大胆な投資促進税制の適用を受けた設備を控除額の計算から除くなどの見直しが行われています。研究開発税制と戦略分野国内生産促進税制は法人税額から控除する税額控除、大胆な投資促進税制は即時償却と税額控除の選択、オープンイノベーション促進税制は所得金額から控除する所得控除と、仕組みが異なるため、対象となる支出や取得する資産を踏まえ、自社の投資内容にあわせて最適な制度を選択することが重要です。なお、大胆な投資促進税制の投資計画について経済産業大臣の確認を受けた法人は、その投資計画の期間内の日を含む各事業年度では、中小企業経営強化税制、地域未来投資促進税制、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の適用を受けることができません。確認を受ける前に、これらの税制を使う予定がないかを確かめておく必要があります。
研究開発税制の見直しが投資計画の実務に与える影響
研究開発投資や設備投資を計画している法人は、適用要件や控除上限を確認したうえで投資計画を検討することが重要です。特に特定生産性向上設備等投資促進税制は新設された制度であるため、対象となる設備の範囲や経済産業大臣の確認手続きなど、これまでの制度にはなかった手順を踏む必要がある点に注意が必要です。税制の対象となるのは、経済産業大臣の確認を受けた日から5年以内に取得した設備です。確認を受ける前に取得した設備は対象にならないため、大型の設備投資を計画している場合は、投資の実行前に確認の手続きを済ませておく必要があります。行政手続きを伴う新設制度は、申請から確認完了までのスケジュールを見誤ると投資のタイミングに間に合わなくなることもあるため、余裕を持ったスケジュール管理が欠かせません。研究開発税制と大胆な投資促進税制は、対象となる支出や資産の種類が異なるため、同一の投資であっても両方の制度の要件を同時に満たすとは限らず、どちらの制度がより有利かを個別に見極める必要があります。研究開発税制は「費用」としての試験研究費を対象とするのに対し、大胆な投資促進税制は「資産」としての設備投資を対象とする点が、両制度を区別するうえでの基本的な違いです。この違いを理解しておくことで、自社の投資が費用の増加を伴うものか、資産の取得を伴うものかに応じて、どちらの制度を優先的に検討すべきかを判断しやすくなります。あわせて賃上げ促進税制の見直しもご確認ください。特に複数の投資促進税制を検討している場合は、それぞれの制度の申請・確認手続きに必要な期間も異なるため、投資の実行スケジュールとあわせて手続きのスケジュールも管理しておくことが望ましいでしょう。
研究開発税制の見直しに関するよくある質問
Q. 研究開発税制はどのような企業が対象になりますか?
A. 青色申告書を提出する法人・個人事業主で、試験研究費の額があるものが対象となる制度で、業種は問いません。ただし控除上限や控除率は法人の規模や研究開発費の増減状況によって異なるため、事前の確認が重要です。試験研究費が増加している企業ほど控除率が高くなる仕組みのため、研究開発投資を継続的に拡大している企業ほど、制度のメリットを大きく受けられる設計になっています。なお、試験研究費には人件費や原材料費、外部への委託費などが含まれる場合があるため、対象となる費用の範囲を正確に把握しておくことが、控除額を正しく計算するための第一歩となります。
Q. オープンイノベーション促進税制とはどのような制度ですか?
A. スタートアップ企業への一定の出資を行った際に、その出資額の一部を所得控除できる制度です。新規性の高い事業への投資を後押しする目的で設けられています。令和8年度税制改正で、取得価額要件の引上げなどの見直しを行ったうえで、適用期限が令和10年3月31日まで2年延長されました。出資後一定期間内に株式を売却するなど一定の要件に反する行為を行った場合は、控除を受けた金額を取り戻される(取崩し)場合があるため、長期的な視点での出資判断が求められます。自社の本業とは異なる分野のスタートアップへの出資を検討する場合は、事業上のシナジーだけでなく、税制優遇の適用可否もあわせて確認しておくとよいでしょう。出資先の選定にあたっては、税制優遇の適用要件だけでなく、出資先企業の事業計画や将来性についても十分に検討したうえで判断することが大切です。
まとめ
研究開発税制の見直しは、成長投資を行う法人にとって重要な改正です。研究開発税制をはじめとする各種投資促進税制は、国が特に重視する分野への投資を後押しする政策的な意図を持って設計されているため、今後も社会情勢に応じて見直しが続くことが予想されます。研究開発費や設備投資額は年度によって変動が大きい法人も多いため、単年度の判断だけでなく、複数年の投資計画を見据えて各制度の利用可否を検討することをお勧めします。特にどの制度を組み合わせて活用するかによって法人税負担が大きく変わることもあるため、投資の実行前に税理士へ相談し、シミュレーションを行っておくと安心です。複数の税制優遇を組み合わせて活用できるかどうかも制度ごとに異なるため、投資計画の段階でまとめて確認しておくことをおすすめします。特に研究開発活動や設備投資は事業の将来を左右する重要な意思決定であるため、税制優遇はあくまで投資判断を後押しする一つの要素として捉え、本来の事業目的を軸に検討を進めることが望ましいといえます。令和8年度税制改正の全体像は令和8年度税制改正まとめのページでご覧いただけます。改正の詳細は国税庁の公式サイトでも公表されていますので、あわせてご確認ください。
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